嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしのことやったてじゃんもんねぇ。

田植えどんすんだもん。若(わっ)か者(もん)達が、

「もうホッとしたにゃあ」ち言(ゅ)うて、

「今日(きゅう)は大平楽で若か者宿で飲めや歌えたい。

えぇしこ酒どん飲んで良かばーい。

沢山(よんにゅう)酒どんあっばーい」

ち言(ゅ)うて、今日どま休うどったてぇ。

あの田植え祭いちゅうて。

あったぎねぇ、そん中の者(もん)の一(ひと)人(い)がさい、

「ぎゃんして、一日ブラブラしおいよか、

いっちょ毒流しどんしてみゅうかあ」と、言うた者(もん)のあったてぇ。

そいぎ毎年(みゃあとし)、そがんとのあいよったらしい。

「そりゃ、良かのう。もう捕ってくいろうて、言わんばっかいに

鮒どんが浮かんで流れてくんもん。毒流しがいちばん骨折らじ良かたい。

鮒でん泥鰌(どんじょ)でん、鰻でん追っ駆け回さじ良かもんのう。

そいば、いっちょしゅうかあ」て言うて、太うか大鍋に、

あの、毒流し、油粕ばねぇ、煮よったて。

あったぎねぇ、おろいか破れかぶれの衣ば着た坊さんの、

そけぇヨローヨロして来ないよったちゅうもん。

背(ほど)の太うかったてぇ、痩せといなったてぇ。そん人の、

「今日(きゅう)は、何事(にゃあごと)あろうかあ」て、言んしゃったて。

「はい。私どん、こいから毒流したんたあ。魚どんもう、

ウンザイすっごと取って食おうで思うて」て、言うたぎぃ、

「そぎゃんにゃーあ」て言うて、「困ったにゃーあ」て、

坊さんの言んしゃったぎぃ、その中の青年達の、

「坊さん、あんたに関係のなかこっじゃろうもん。

何(なん)の困っかんたあ」て、言んしゃったぎぃ、

「いや、我が我がは仏の道ば行きよっけんばい、

魚ば毒流しばすっぎぃ、親ばっかいじゃなし、子どんが、

末期の末まで今朝生まれたて、全部(しっきゃ)あどめちぃ死ぬばい。

そいも殺生なこったーい。そいけん毒流しいっちょはほんなことは、

せんが良かばーい。あん達止めんさい。

毒流しは、そりゃあ殺生ばい。止めてが良かいどん。

私が頼むばい、止めんさい」て、その坊さんが言うて。

「お前(まい)は、そぎゃんいらん口ばあーっかい喋よいどん、

坊さんな魚どま食わじ良かもんのう」て。

「そいけん、そぎゃん言うどん、我が我がもう、

田植えしゅうで、痩せひごくいして、朝から晩まで気張ったけん、

魚ないとん、鰻ないとん食わんぎ精のつかーん」て、

こぎゃん若(わっ)か者(もん)どんが言う。

「あいどん、太か魚ばかい捕っと良かいどん、

子孫の無(の)うなってしもうて、この川は魚のおらんごとなろうだい」

「そりゃあ、そがんさーあ。

全部(しっきゃ)あどめ根こそぎおっ捕っとやっけん」

「いんにゃあ。そいぎぃ、私も頼むけん、

止めんさい。止めてくんさい」しきりに言んしゃっちゅうもんねぇ。

「坊さんのおかしかにゃあ。ぎゃんて相(やあ)手(て)どんしおっぎぃ、

うん、日の暮るっ。行こい、行こい。

ほら、今朝からはぎゃん、あの、握い飯どま沢山(よんにゅう)握って、

おどまもう、腹いっぴゃあ食ったけん、お前(まい)さんも

こいどん食って行きござい」ち言(ゅ)うて、握い飯どん食せたぎぃ、

ゴソゴソ腰掛けて食べおんしゃった。あったぎぃ、そのうちおらんごとなんしゃったあ。

そうしてねぇ、皆はもう、川さいワイワイやって行たて、毒流しの汁ば、

こう川上辺(にき)から投げんさっちゅうもん。あったぎもう、

ものの半時間(はんしかん)も経たんうち、

ポカッポカッ、ポカッポカッ、鯉でん鮒でん、

沢山(よんゆう)泥鰌でん浮かってきたて。あったぎぃ、

「おお、沢山(よんにゅう)おんにゃあ」て言うて、

誰(だい)でんそん魚ば上げよったぎねぇ、一人(ひとい)の男の、

「こや、何(なん)なーあ」ち言(ゅ)うた。

「『何(なん)の』て、魚じゃろうだい」

「いんにゃあ。鰻にしても余(あんま)い太かけん、ビックイしとっ」ち言(ゅ)う。

「ありゃあ、ほんなこてぇ、丸太ん棒のごと太かとの、ぎゃんとのう」

ち言(ゅ)うて、皆がビックイして見た。

そいぎぃ、良(ゆ)う見たぎぃ、そりゃあ頭のヌペーッてして、太ーか太か鰻やったて。

「こりゃ、鰻じゃなかなーあ。

こりゃ、三年鰻て聞いたことなかいどん、五年鰻じゃなかなあ。

あいどん、こりゃあ、あがんとばい、この川の主じゃったばいのう。

今まで、ぎゃん太かとの見たごとなかあ」て言うて、そうして眺めすかしつつもう、

「太か太か」ち言(ゅ)うて、皆が褒めちぎってね、見おって。

「あいどん、こりゃ、誰(だい)でん一口ないどん食うてが良かろうだーい。

あいどん、どぎゃんしてわくんない」て、言うことになって。

「そりゃあ、ぎゃん長(なん)かもんじゃ、

輪切りにしてがいちばん誰(だい)でんいきわたっ」て、言うことで、ブツンブツン切りかかったてぇ。

あったぎ歯の辺(にき)からねぇ、切っ時なったぎぃ、

ボロボロボロって、ご飯粒のごたっとの出た。

そいぎ誰(だい)でんゾーッてしたて。

「ほら、おどんが毒流す前、坊主の来たろうがあ。あの坊主の、

あの、握い飯いっちょぐらい食うて行たたい。

そいぎぃ、こいが化けて来とっとばい。

おどん、どうろよそん悪か、祟いの来っかわからん」て、全部あ思うたて。

そいで、そいから先ゃあその、その川に毒流しばせんじゃったあ、ていう話。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P833)

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