嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

中国の国にさい、

恐ーろしか氏素性の良か兄弟がおんしゃったちゅうもんねぇ。

ところが、お父さんはねぇ、

弟の方が恐ーろしか利口かったもんじゃい、

弟ば好(し)いとんしゃったてぇ。

そいぎ兄さんは、好(す)かんよねぇ。

こん蓄生、弟ばっかいむぞうがって(可愛イガッテ)、

何時(いつ)ーうでん俺(おり)ゃのけもんばかいさるっ。

余(あんま)い弟が気の利いとんもんじゃっけん、て、

兄さんな何時(いつ)ーうでん、僻(ひが)んどんしゃったて。

どぎゃんないとんして、弟ば困らせてくりゅうだーいて、

兄さんな思いよったちゅうもんねぇ。

そいもんじゃっけん、ある日のこと、

その弟が学問は天才的じゃったけん、

詩を作いおんしゃったてぱん、

(あんた達、詩ちゅうぎ知っとんねぇ。

チイッと短(みし)こうして、良(ゆ)うわけのわかっと。)

そいば上手に作いおんしゃったちゅうもんねぇ。

そいどん、そいけんお父さんは、

「弟の詩が良かあ」ち言(ゅ)うて、褒めおんしゃったて。

そいぎぃ、ある日のこったいねぇ。

兄さんが弟に言うにはねぇ、

「お前(まい)やお父さんから、

『ほんに詩の上手、詩の上手』ち言(ゅ)うて、褒められおっ」て。

「そんないば、

『一歩、二歩、三歩、四歩』て、

七歩あるくうちに、立派か詩ば作って出せ」て。

「そいば作いえんぎぃ、お前(まい)ば罰すっぞ」て、

兄さんのそぎゃん言んしゃったちゅうもんねぇ。

困ったにゃあ。早(はよ)うー歩かるっぎぃ、

でけそこなう。考えでんすっ暇なかあ、て思うたもんじゃい、

台所は見よんしゃったぎねぇ、おっ母(か)さんのくどに、

鍋ばかけて豆ば煮おんしゃったて。そうして、

豆殻ば焚きおんしゃったて。

そいぎぃ、その弟が、ああ、これじゃあ、と思うて、

豆殻は釜の底で火と燃えて

豆は釜の中で泣いている

ていう、自分の気持ちをソックリ歌ば詠みんしゃったちゅう。そうして、

「兄さん。はい、できました」て言うて、

自分達、兄が弟を憎んでちぃっとも仲良くしてくれないことを、

ちょうどこの豆と豆殻と、

同じだと例えにして立派な詩を作んさったちゅう。

〔二二  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P292)

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