多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 その、舟山に、えぇ、その、

婆さんがおったらしいのまい。

その婆さんが、

「今日は、こりゃあ、明日(あしち)ゃあは

こりゃあ天気ばい。今日は雨の降っばい」

て言うて、その、

なかなかよう言いよったらしい。

ところが、

その婆さんの言うように、その、

やっぱい婆さんの言うたごと、

雨の降っ時にゃあ、雨の降っ。

もう天気になって、

もう晴るっばい、て言うぎぃ、

やっぱい晴るっらしいもん。

そいもんだから、そいじゃその、

だんだんだん、その、

世間話が広くなって。

そしてその、殿(とん)さんに、

まあ、お耳に入ったもんだから、

「そがん使用人の、その、

年寄(としお)いのその、

女子(おなご)のおんないば。

そいないば、一応家(うち)その、

連れてこい」と。

そうしてその、

「家で天気をその、見てもらおう」

と、いうことに、まあ、やって来た。

ところが今度(こんだ)あ、その婆さんが、

「そりゃあまた、

殿さんからお呼びたてしてそうしてその、

『明日ゃあ雨の降る。天気のよか』て、

俺(おい)が言いよっどん

【言っているけれども】、

そいないば【それならば】こりゃもう、

まあ、殿さんの前じゃっけんが【だから】、

まあ、仕上げてなっとん行かぞう

【身支度(みじたく)してから行きたい】」

て、いうことで、新しい着物を着て、

腰巻きも全部代えて。

そうしてその、立派に、

もうぴしゃっと【きちんと】、

その、身を清めて殿さん所(とこ)に

行たちゅうわけ。

そうして、行たてしとったところが、

その後はその、

なかなかいっちょでん【ひとつも】

その、えぇ、思うごとその、

答が出んらしいもん。

そいぎぃ、

なし出んかにゃあと思うとったぎですね

【思っていたらですね】、

ありゃあ、しもうた【あれ、しまった】。

もうほんなごて【本当に】、

あの腰巻きいっちょうはこりゃ、

してきとかんばいかんじゃったにゃあと

【してきておかなければ

いけなかったなあと】。

その腰巻きは、

あいが【あれが】天気予報に大きくまあ、

関連しとったわけたい。

て、いうのが、

雨の降っ時分になっぎさい【なったらね】、

その腰巻きがもう、十年も二十年も、

嫁げぇなってきた時分に、

その、ひゃあてきとった腰巻きじゃったて。

そいもんじゃい【それだから】、

もう何十年て着とんもん

【着ていたから】じゃい、

もう垢(あか)の付(ち)いて

汚れとっわけよ、臭かごとなって。

そいもんだから、雨の降る時ゃ、

あいがもう、シトウシトウなって、

あすけぇきゃあまくわけたいね。

そいもんじゃ、今日は天気のよかにゃあ、

と思うとっても、

湿度の上がってくっぎにゃあと

【上がってくると】、

「明日(あしち)ゃあは雨ばい」

て言うぎぃ、

やっぱい雨の降いよったらしいもん。

そいけん【だから】、

そういうその、なんて腰巻きいっちょで、

天気予報をその、当てよったていうことを、

まあ、聞かされとったですがねぇ。

[大成 四二九 もとの平六]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P39)

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