嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

嫁御ひっ担ぎちゅうとの流行(はやい)よったちゅうもんねぇ。

我が家に嫁さんば連れ込まんば安心されんて、言うごたったて。

あったいどんねぇ、ある村に村小町て言われるっごと

きれいか娘さんのおらしたちゅう。

そいぎぃ、あるその村の若(わっ)か者が、

その娘ば好(し)いとったちゅうもんね。

好いて好いてたまらんじゃったて。

そいで、堪(こら)えきらじぃ、その娘の親父さんにねぇ、

「私(あたし)にお宅の娘さんば、お嫁さんにくんさい」て、

思いきって言うたもん。そいぎぃ、お父(とっ)たんの言んさっにはね、

「もう、こりゃあ隣村(とないむら)の長者どんに

お嫁に行くごと決まっとんもん」て、言うことじゃったて。

そいぎぃ、あくる月、もうそりゃあ、美しか着(き)物(もん)ば着て、

嫁入り迎えの人達と一緒に花嫁行列ば作って出かけんさいたちゅう。

「嫁くさんば見物せんばあ」ち言(ゅ)うて、沢山の人が並んで見おったちゅう。

「きれいか嫁くさんねぇ。弁天さんのごたっねぇ」

ち言(ゅ)うて、溜め息しながら眺めよったちゅう。

そいばあの男は、

「ああ、嫁に欲しかにゃあ」て言うて、友達に頼んでさ、

その花嫁行列ば松の木の根の林に待っとったて。

そうして、その千本松の所(とこ)を通いかかった時、

「それぇ」って、飛び出(じ)ゃあて、花嫁の駕籠に入って嫁さんば

ひっ担いで、ドンドンやって逃げて行たちゅうもんねぇ。

そうして、その娘ば好(し)いとった家の倉ん中に押し込めとったて。

そいで、隣村(とないむら)の長者どんの聟どんが、役所に訴え出たて。

そいぎぃ、代官さんが来て、男ば呼び出(じ)ゃあて、

「『嫁入りの途中で奪った』ち言(ゅ)うのは、本当かあ」ちて、聞きんしゃったぎぃ、

「はい。本当です」ちて、正直に答えたて。そいぎぃ、

「何処(どこ)に隠しているかあ」て、代官さんの聞きんしゃったて。そいぎぃ、

「そいばっかいは、幾ら代官さんでん教(おそ)えられん」

て、言うたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「『その娘ば嫁さんに欲しか』ち言(ゅ)うとば連れて来い」ち言(ゅ)うて、

連れて来たぎぃ、その本人ば連れて来たちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「お前(まい)は何処(どけ)ぇ、その娘ば隠しとろう、言え」て、言うたぎぃ、

「幾ら代官さんでん、私も言いません」

「そいぎぃ、お前ば打ち首にすっが、良かかあ」て、言うたら、

「打ち首になっても、どぎゃんなっても構わん。

命がけであの女(おなご)に惚れとったけん」て、言うたちゅう。

そいぎねぇ、その代官さんは、その一言に心ば打たれて、

「そぎゃん好いとったとかあ」て、言うたて。

そいぎぃ、訴え出た長者どんの男に代官さんの言わすには、

「どうじゃ、お前には拙者からのお願いだけど、

もうあの女はさ、傷もんになっとっとばい。ほんに無念じゃろいどん、

あん男に譲ってしもうたがましよう。あの男に譲ってくれろう」

て言うて、頼んだて。

そいで、仕様(しよん)なしスゴスゴと訴え出た男も帰って行ったて。

そうして、この、あの女を好きじゃった男は、

嫁じょに見事にすることができたてばい。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P835)

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