嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいぎ今度(こんだ)あですねぇ、

「海坊主と藁人形」の、浜(佐賀県鹿島市)ん話ですよ。

千燈篭祭(さい)の始まい。

浜に千燈篭祭(まつ)いちゅうてあっですもんね。

その起こりですねぇ、むかーしむかし。

海にさい海坊主ちゅうとのおってばい。

ところがねぇ、その海坊主が町さい来たちゅう、浜ん町さん。

そのねぇ、浜ん町ちゅうぎんとにゃ、そこに煮干てぇろうの削い節てん、

沢山(ゆんにゅう)作いおんしゃっとたーい。

海の根つうじゃっけん、漁師さん達の町やったもんねぇ。

そいぎぃ、ある朝、初(はつ)さん所(とこ)ん者(もん)の、

昨日(きのう)作った煮干の全部(しっきゃ)あどめ無(の)うなっとったちゅう。

「家(いち)ん者(もん)の煮干はなかあ」ち言(ゅ)うて、大騒ぎしおんしゃったて。

あったぎねぇ、あくる日になったぎぃ、隣(とない)もねぇ、

「家(うち)も無うなったあ。

ぎゃん無うなってしまうちゅうことはなかいどん、

誰(だい)がうち(接頭語的な用法)食うたろうにゃあ。

ぎゃん沢山(よんにゅう)」て言うて、

ちかっと残い物(もん)のありゃあすんみゃあかあ、

と思うて、探しおらしたいどん、いっちょんもう、

そのけぎゃあがわからんてやんもんね

(「けぎゃあ」ち言(ゅ)うとは、気配がわからんて)。

そいぎぃ、ヒョコッて探しおんさったぎぃ、

人間の足の倍ぐりゃああっごとっ太か足跡の、

その海の入り口ん辺(にき)あって、壁で天井まで付(ち)いとったて。

そいぎ浜の者の、

「ありゃあ、こりゃ海坊主の仕業ばい」て言うてねぇ、

その煮干ばいち食われた所の爺さんの言わしたちゅう。

そいぎ見たら、

「ほんなこてぇ、ぎゃんこと人間の仕業じゃなかあ」て言うて、

そいから皆で相談の始まったとよう。

そいぎぃ、海坊主の来(こ)んごとせんぎぃ、わがわが仕事もあがったいばい。

どぎゃんして退治しゅうか。酷か目あわせんば」て、

言うことになった、話しよったいどん、

「ありゃあ、海坊主ばやっつけたかい。

海坊主と相撲でん取いゆっ者はなか。

そうして、人間のいう言葉のわかろうかあ」と、言うごとになったぎねぇ、

その爺ちゃんのねぇ、天井まで届くごたっ男じゃないば、

まっと太か人形ば作って、誰(だい)でん戸口に屋根が高(たっ)かとば立てとっぎぃ、

どぎゃんやろうかあ」て、言うことになったちゅう。あったぎぃ、

「そぎゃんしてみゅうかあ。何の効くかわからんもん」て、

言うことで、他(ほか)の者(もん)もねぇ、その人形作い、そいから始まった。

「そぎゃんしてみゅう。効き目のあいがわからん」て、言うことで、

あくる日は煮干どま作らじぃ、藁麦ば持って来てば、

麦藁人形ば怖(えす)かごと太かとば作い始めた。

そいば戸口に立てとったぎねぇ、そいから先ゃ、煮干ば家(うち)の中に広げとっとも、

外(そて)ぇ出(じ)ゃあとっても、いっちょでん減らんやったて。

誰(だーい)もそいから先ゃ盗(と)ん者(もん)のなかった。

そしてねぇ、その一方、海坊主はどぎゃんかちゅうぎぃ、

「あの、煮干の美味(うま)かったことの、生きた魚よいか美味かったあ。

今夜もたらふく食べたいなあ」ち言(ゅ)うて、来(き)おったてぇ。

あったぎその、海坊主のまた味くろうて、来おったぎぃ、

戸口に太かも太か屋根よいか高(たっ)か人間の立っとっちゅうもんねぇ。

人間じゃい何じゃい、化け物(もん)のごたっとの立っとったて。

「ありゃあ、ぎゃん美味かとば別に食べぎゃあ、化け物のおったないば、

とてーも我がまでいち食われるかわからん」て言うて、

海坊主はそいから先ゃ一度も出て来んごとなったちゅうばい。

そいから先ゃ、何処でん家でん煮干作いは忙しかったどん、

表(おもて)ん戸口に藁人形の太ーかとば作って立てて、

魚ば蒸して煮干ば広げて、そして未だに浜は煮干作い、

削い節作い、言うて、村の栄えよっちゅうよ。

そいばっきゃ。

まあーだ続きます。そいぎ言いましょうか。

あのねぇ、そいどん、その、いっちょん来んごとなったからねぇ、

「その、麦藁人形さんのお陰ばい」ち言(ゅ)うて、

その人形さんは、誰でん氏神さんにお供えして、村中の者(もん)は、

その、めいめい明かりば灯して、夜になっぎお参りしおらしたて、氏神さんに。

そいもんじゃい、未だに氏神さんの祭いの日になっぎぃ、

年に一度じゃんもんじゃい、もう町の者の全部(しっきゃ)あ、

大人も年(とし)寄(よ)いも子供も、提灯ば下げてお参りしおったちゅう。

そいが、祇園さんの千燈篭祭いちゅうて、

浜ん町は今もあっちゅうばーい。(そこん、おしまいは言わんでおりました。)

そいで終わります。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P830)

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