嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

竜王(佐賀県杵島郡白石町)から古賀さい行くズーッとあすこにね、

六本松ちゅう所(とけ)ぇ恐ろしか猛た古狐が棲んどったと。

あすこん辺(たい)を暗(くろ)うないさみゃあどん、

通るぎと誰(だい)でん昔は私達小さか時ゃ通いえんごとあった。

怖(えす)かったと。

必ず騙さるっちゅうて。

そいぎぃ、ある晩ねぇ、その峠の龍源寺の和尚さんがねぇ、

供養に行たて遅(おそ)うまで呼ばれて六本松を通りかかったて。

そいぎねぇ、和尚さんなほんに酒好きじゃったもんじゃい、酒に招(よ)ばれて。

フラフラしながら来よったて。

あったぎぃ、六本松の狐はじき出てきてさ、その油揚げの臭いはするし、

ほんに欲しゅうしてたまらんどん、お酒に酔うてから、

フラフラフラフラ、右左フラつきんさっもんじゃい、

いっちょんその、なかなかみやげに飛びつこうですっぎぃ、

あっさいフラ、こっちさいフラ、飛びつくことができじおったと。

そいぎぃ、狐も考えた。ああ、龍源寺の和尚さんは

相撲が大好きじゃったなあ、思(おめ)ぇ出(じ)ゃあたてぇ。

そいぎねぇ、早速ね、和尚さんに

人間になって出てきて、

「あら、和尚さん。今、お帰りですか。良か気分でこりゃあまた結構なことでぇ」

て言うて、機嫌どんとってからばい、その六本松の狐は、

「和尚さん、相撲は今頃(こんごろ)しんさらんとやあ」

て、言うたてじゃんもん。

そいぎぃ、和尚さんな相撲て聞いて、目の色のコロッと変わったて。

「そうなあ。私(わし)ゃ、相撲が大好きでなあ」て、言んしゃったて。

「そいぎぃ、いっちょここん辺(たい)で相撲どん取ろうかあ」

て言うて、その良か塩梅(んびゃあ)若(わっ)か者(もん)に化けとんもんじゃい、

狐が言うちゅうもん。そうして和尚さんな、そこん辺(たい)みやげどまほっぽり出して、

「さあ、来い」ち言(ゅ)うて、真っ裸になって、

「負けんぞう。俺(おり)ゃ、年ゃ取ってもお前(まい)さんには負けんぞう」

ち言(ゅ)うて、

「二人(ふちゃい)さあ、ドッコイドッコイ」ち言(ゅ)うて、

相撲ば取いかからしたちゅうもんねぇ。そいどんお寺では、

「ぎゃーん夜(よ)さい遅(おす)う夜更けたとけぇ、和尚さんな帰んさらん」

ち言(ゅ)うて、小僧さんが、

「余(あんま)い帰りの遅かあ」て、待っとってねぇ。

何事(にゃあごと)あったいろうわからん。

和尚さんが酒好きじゃっけん、あすこん辺(たい)で

倒れてうっつ伏(ぶ)せとんさいどんわからん、

と思うて、提灯つけて迎えに出かけたて。

あったぎぃ、和尚さんてしたことが六本松の太かとに抱きついて、

「私(わし)ゃ負けんぞ。まあーだ若(わっ)か者(もん)には勝つぞ。

さあ、しかかっ(挑ム)てこい。俺(おい)が強かぞう」

て言うて、言いよんさったちゅうもん。

そいぎぃ、小僧さんからパタパタて、肩ば叩かれて、

「ありゃ、しもうた。今んとは騙されとったとかあ。

みやげどまおっ盗(と)られたろうだーい」ち言(ゅ)うて、和尚さんな残念がんしゃったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P823)

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