嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

峠に悦ちゃんちゅう男のおったと。

その悦ちゃんが狐に説教させたちゅう。

この悦ちゃんな、恐ろしゅう大酒飲みでねぇ。

評判の悪かったと。

ある雨の降る晩にさ。

悦ちゃんが何時(いつ)もんごと酔っぱるうて、

墓ん辺(にき)ば通いよったぎねぇ。そいぎぃ、

「こら待てぇ」て言うて、

今まで見たこともなかごと太か爺さんのさい、呼び止めんさいたちゅう。

そうしてねぇ、

「座われ」て言うて、爺さんから叱(くら)われた、

太か男じゃっもんじゃい、怖(え)っしゃ悦ちゃんはそけぇ、

ヨトヨトしよんもんじゃい座わったて。

そいぎぃ、爺さんの言わすにはねぇ、

「やい、やい。俺(おい)はなあ、お前んうちの先祖さんだぞう。

苦労して働(はたり)ゃあて、身代を残しとったとこれぇ、

お前(まり)ゃあ毎日、毎晩、飲んだくれて、身代ばつぶして仕舞(しみゃ)あおっ」て。

「お前(まい)のごと親不孝者(もん)なおらん。

親不孝の大将じゃあ。そけぇ座われぇ。

何時(いつ)まっでん座っとれぇ」て言うて、

一晩中、墓ん前にもう、寒やか夜(よ)さい座わらせられとったてぇ。

そうして、夜の明くっ時分にやっと、

「帰っても良かあ」て、許されたちゅうもん。

そいぎぃ、悦ちゃんな帰って嫁さんに言うには、

「俺(おり)ゃあ、今日(きゅう)限り酒はもう飲まん」て。

「夕べはさい、もう一晩中良か気色で来(き)おっ時、

先祖さんの墓ん前に座らせられて。

そうして、ありゃ、先祖さんやった。先祖さんから叱(くる)わられた」

て言うて、嫁さんに語ったて。

そいから先ゃねぇ、悦ちゃんなプッーと飲まんごとなったてばい。

先祖さんに化けて来たとは狐やったと。

あいどん、悦ちゃんな早死に四十三歳で亡くならいたあ。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P822)

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