嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

平山(佐賀県杵島郡白石町室島)ん畑ていう所は、

もう狐の西山からも東山からも、南山からも集まい所(どこ)じゃった。

狐の集会所たいねぇ。

そいどん、面白(おもしえ)ぇことに、平山ん畑にはねぇ、

権(ごんの)次(じ)ていうて、狐の大将のおったてよう。

この狐の大将は幅のきいとったけんねぇ、

この権次の言うことにゃもう、

他(ほか)ん所(とこ)の狐どんは良(ゆ)うきくちゅうさい。

「何時(いつ)何日(いっか)の日にゃあ、日の暮るっぎぃ、

そいば合図に誰(だい)でん集まって来い」て、権次が言うぎぃ、

「権次のお触れ」て、いうことで、孫・ひまごやしや孫、

そりゃ狐のゾロゾロ寄って、後ろ見い後ろ見いして平山ん畑に集まいおったと。

そうして、沢山(よんにゅう)集まって狐どま芝居ば始むっちゅう。

そいが夜(よ)さい遅(おそ)う酔うてどん帰おっぎさい、

平山ん畑の峠さん来(き)おっぎねぇ、カチカチカチていうて、

音の響き渡っちゅうもん。

そうして、幕の開(あ)くちゅう。

そうして、見おっぎい人も沢山(よんにゅう)集まっとっ

わが一人じゃなかガヤガヤガヤガヤ言いよらすちゅう。

あらー、ここは芝居のあいよっばいにゃあ。

どらー、いっちょ見てみゅうかあ、と思うて、沢山の人の後ろから、

こう延び上って見っぎぃ、幕の上がってきれいか娘の子に、

雲助ちゅう駕籠(かご)かきどんが、やいせこい、

「駕籠に乗れ」て。「銭(ぜん)ないらんけん、お前(まい)乗れ」て、言いおっ。

そいどん、きれいかその娘は、

「いんにゃあ、乗らん」て。

「家(うち)ゃ、じきそこじゃっけん、乗らん」て断いをっ。雲助どま、

「乗れ。お前から銭な取らん」て、言いおっところにそけぇさい、

若(わっ)かきれいか色の白か侍の通いかかって、若か娘に、

「お前(まい)さんと一緒に道連れしたかけん、

お前さんとそこん辺(たい)まで歩いて行こう」と、申し込むて。

そいぎぃ、その若侍に雲助どんが喧嘩ふっかけて、

そうしてもう、とんつもんつう。そいぎ見物人な、

「やれ、やれ。どっちが勝つか。雲助どんばやっつけろ」ち言(ゅ)うて、

囃子(はやし)立っちゅうもんね。

こぎゃんことば夜の明くっまで誰(だい)でん泣いたい笑うたいして見よったと。

ところが、夜の明けてみっぎさい、ほんに面白か狂言じゃったばってん、

畑の草ん中(なき)ゃあ座って。

朝になっぎ、朝早(はよ)うに仕事に行く者達から、背中ばボトンボトンと叩かれて、

「わさん達は、夜のよしして草ん中ゃあ座って狂言見よったてや。

狐の芝居の。大名行列のあいをったてや、ざまなか」て言うて、

どやされて気のつきおったいどん、見た者(もん)な面白かったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P822)

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