嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 こいもねぇ、むかーしむかしのことやったよう。

ほんに田舎の子供、昔はお手伝いしよったいどん、この話に出てくっ子供は、ほんにもう、言うことば聞いて、良(よ)うお父さんのお手伝いをしよったちゅう。

「あいばせろ」ち言(ゅ)うぎぃ、「はい」ち。「こいばせろ」ち言(ゅ)うぎぃ、「ない(ハイ)」ち言(ゅ)うて、良う言うことば聞く。

そいぎぃ、何時(いつ)ーでも馬を運動もさせじぃ、その替え馬がおって、お父さんがほったらきゃあとったもんだから、ある日、

「こりゃ、坊主。家(うち)ん馬ば一時(いーとき)連れて行たて、草原で草どん食べさせてきてくれんかあ」て、お父さんが言うたぎぃ、

「はい、はい」と、返事をして。そうして、その坊やは馬ば引いて、若(わっ)か草のいっぱい生い茂った原っぱまで行たて、馬ば繋(つに)ゃあどったて。

そいぎぃ、馬は首ば長(なご)うにゃあて、美味(おい)しか草をサクサク、サクサク食べよったて。そいぎぃ、こりゃあ、一時(いっとき)ぐりゃあおらじも良かばいねぇ、と思うて、杭(くい)ば根つうのあっ所(とこ)から拾うて来て打って、それぇ馬の手綱(たづな)ば繋ゃあて、そこん辺(たい)に川のあったけん、川で鮒(ふな)どんおろうかにゃあ、と思うて、見よったぎぃ、鮒のチョロチョロおっちゅうもんねぇ。そいぎぃ、鮒どん追っかけておったぎぃ、一時(いーとき)ばっかい時のたっとのわからじおったてぇ。あったぎ(ソウシタラ)ねぇ、この溝の川からさ、河童の上って来てねぇ、馬ば見て、ありゃあ、美味(うま)そうなお尻ばしとっなあ。こいば川に引っ張い込んで、いっちょ全部(しっきゃ)あ食びゅうかあて、河童が思うたて。そいどん、上って馬ん側(そび)ゃあ行たぎぃ、綱ばシッカイ杭(くい)に巻きつけてあってじゃんもん。そうして、馬は夢中で新しか若(わっ)か草ば食べおっちゅう。そいぎぃ、河童はこうして、ヒョロウヒョロウして、体をぶっつけたいないしたいしおったぎぃ、杭の抜けたちゅうもん。そいぎぃ、しめしめ、と河童思うて、手綱ば引いたぎ馬足のヒョロッと動いたちゅう。良かぞ、良かぞ、来い、来い、引き込もう、と思うとったぎぃ、なかなか馬も太うして、草に目のくれていっちょん来んて。そいぎぃ、その時ねぇ、魚ば捕った坊主が、馬はやっぱいおろうかにゃあ。もう草どん食べてしもうたぎぃ、移さんばにゃあ、と思うとって、こう振り向いて見たぎぃ、どーうも馬の様子がおかしゅうして、前足で蹴ってみたい、飛び上ってみたいしおって。おかしかにゃあ、何時(いつ)もぎゃんことなかいどん、と思って、坊主は、うーん、まちかっとおとなしくなっごとしてやらんばにゃあ、と思って、川から上って来て、その繋(つに)ゃあどった杭ばひん抜(に)いで、馬の尻ばヒュ、て叩(たち)ゃあた。そいぎぃ、馬は尻ば叩いたもんじゃっけん、驚いてヒヒーンヒヒーンと叫(おめ)ぇて、立ち上ったて。

そいぎもう、長(なが)んかこつ馬は草ば食べさせおったいどん、もうそこん辺(たい)近所食べたもん、家(うち)さい帰ろう、と思うて、テクテク、テクテクと、その坊主は馬を引いて来よったぎぃ、檀家の和尚さんに出会うた。そいで、和尚さんな和尚さんで、さすがに大人で、しかも和尚さんじゃったけん、馬の後ろばチラッと見てねぇ、

「ありゃあ、河童までついて来(き)おっじゃなっかあ」て、和尚さんの言んしゃったて。

そいぎぃ、この坊主ようようして、河童のことに気のついて、後ろを見たぎほんなこて河童のブラ下がっとったちゅうもんねぇ。そいぎ和尚さんの、

「こりゃあ、馬ば取ろうでしおったとばい」ち言(ゅ)うて、河童ば馬から引き離して、

「こん河童は、そいぎぃ、私(わし)が懲(こ)らしめてやるからー」て言うて、和尚さんは、その河童の手首ばねぇ、縄で括(くく)んしゃったて。

そうしてねぇ、ジーッとしとんしゃったぎぃ、河童ちゅうもんが、シクシク、シクシク泣き出(じ)ゃあたちゅうもん。もう涙をボロボロ出(じ)ゃあて、河童の泣き出すちゅうもんねぇ。そうして、和尚さんに言うことにゃ、

「和尚様、私にも子供がおります。もう今からこんな悪戯(いたずら)は決していたしません。どうぞ、お許しください。そんかわり、『今から何(なーん)も悪さはせん』ていう、詫び証文ば書きますから」て言うて、泣くちゅう。

「そぎゃんやあ。ほんなこて悪戯ばせんない解(ほど)いてやろうだあーい」て、解いてやんしゃったぎぃ、その辺(へん)で生えとった葛の葉に証文じゃい何(ない)じゃい知らんどん、わけくちわからんような字ば書いて、

「こりゃもう、必ず守ります。今からは困らせません」て言うて、差し出(じ)ゃあたて。和尚さんな、そいば受け取んしゃったぎぃ、その河童は嬉しそうにして、ヒョコヒョコと、川さい帰って行ったちゅうよ。

そいから先ゃねぇ、大抵、子供が泳ぎおっとば、溺れさせたい、馬ば川へ引き込んだい、ほんにたびたび河童の仕業(しわざ)じゃろう、てあいよったいどん、そいから先ゃ、河童は何も悪戯せんじゃったて。

そいばあっきゃ。

〔八五 文化叙事伝説(精霊)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P771)

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