唐津市馬渡島二松 牧山トモさん(明12生)

 ガワッパは大雨の前に人間に出会うた人がおります。

息子がな、朝早く起きて、鳥海に行きます。

ところが、音カタカタいうてその、下から登ってガワッパの来よった思うて。

そうして山の中に座っておれば、寒うして寒うしてたまらんて。

そうしてもう、何時(いつ)がそけぇ幾ら座っても、

そりがもう、そりがきりなし。

カタカタ歩いて一時(いっとき)そうすっ時ゃな、

もう今日(きゅう)は寒うはあるして、もしも立って思うて、

こう山ん中さい出てきとっけん。まあーだ後にいっちょんおったもん。

こりが足があったち。

「キャッていう時ゃ、そん時やもうわがさいなかごと恐ろしかった」

て言うて、今だにその人がしかになっております。

そいけん、その叔父さんの家(うち)に行たて、

「おんじさん」て言うて、起こしてみても、まあーだおずまん。

そうして鳥海山に行たて、鳥海の叔母さんの、起こしてみたけれども、

まあーだ、

「こげんあるよ。何(なん)して来たか」て。

「何時になっ」て。

「まあーだ三時」ち。

「ゆう、早(はよ)う来たな」て言うたら、

「殿様から、明日(あした)早う起きてかせで」て、

言われんとばってんけん、そいで、しぐさまのことを思うて行きおっ。

そして、

「早う、戸ば開けてくれんなー」ちて、戸を開けてみれば、真っ青しとっち。

「わりゃ、何(なん)したとか」ち。

「化け物におうたけん」ち、言うたれば、化け物におう時ゃ、

その玉さんの顔も青うなっとっ。

「どうして」ち言()うたらもう、そのはなから、

来る来る日も日も、ガタガタもう、一時(いっとき)もう寒うしてたまらんけんが、

「寒うなった。幾らか恐ろしかったろう」て言うてな。

そうして火をたきつけて、

「早(はよ)う、当たれ」て言うて、

その叔母さんが起きて、その火をたきつけてくれて、

「朝焼けに来た」て言うてにゃ、もうそりゃあ一時(いっとき)ゃじゃなか。

そう聞いてみましたところが、その人は現におらすとじゃっけんな。

ガワッパが浜から上がって山の方に来る。

魔の物(もん)て言いますもんな。

〔その他〕

(出典 未発刊)

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