唐津市馬渡島二松 牧山トモさん(明12生)

 田を打ちよれば、狸が出て来て。あの、

その爺が田打つにゃ

左取っちゃガッカリショイ

右取っちゃベッタイ

爺が腹んたって、

「こん畜生、うち殺(これ)ぇてくるってぇ」て言()うて、

鍬を担げて行けば、穴ん中さい入(はい)っちゅうたい。

「ここさい来い」

そうして、そういうふうにすっぎぃ、田を、

その爺が田打つにゃ

左取っちゃガッカリショイ

右取っちゃベッタイショ

「馬鹿馬鹿しく」ち言うて、にくじば言う。

爺が腹んたって、

「こん畜生、うち殺ぇてくるっ」て、言うて。

そうすぎるにゃあ、また穴ん中さいチョロッて入(はい)って言うさい。

そうして爺がもう、狸らがにくじを言われて腹んたつけん、また打ちよる。

また狸が出て来て、その、今度(こんだ)あ俺(おり)が、

えらかすけんと思うて、穴ん中をこう、

泥ば持って行たて、こうしてしておったちゅうたい。

そいぎと今度あ、滑ったちゅう。すべて、そうして、

「こん畜生、俺ににく今まで言うたな」て、

鍬で打ったれば死んだちゅうたい。

死んだけんたあ、明日もあるけん、

縄でくびってわが家(やど)に戻ったちゅうたい。

そうして、

「婆(うんぼ)、婆。こりゃあ、狸ばうち殺(これ)ぇきたけんが。さあ」

「そうしたら、狸の落ちても転倒はせんねぇ」と、言うちゅうたい。

そうしたら、

「狸ば殺ぇてきたけん、えぇとこあったなあ」ち言()うて、

そうしてきびって下げて、行くちゅうたい。

家おれば、もう昼頃になる。

もう日暮れになった。

そうしたら麦を搗きおっちゅうたい、臼に入れてな。

そいぎにゃ、

「婆(うんぼ)、あの、麦を搗いちゃけんが、俺(おれ)ばほとかんね」

ち、狸が言うたち。

そうしてその、婆(うんぼ)がほてぇたい、わが来てない。

そうしたところが狸が、臼に中にゃパタッて言うて、

婆の頭にコツーンちくらせた。

「ああ、俺(おり)が頭ば割って」ち、婆が言うてさ。

「わがの頭じゃったや」て、狸が言うちゅうたい。

そしたぎにゃ、また婆の頭ばコッーンち、また打ったちゅう。

そうしたら、婆が死んだちゅう。

婆のうち割って、婆の死んだちゅう。

婆の頭うち割って、婆の死んだち。

そうしたら狸が今度(こんだ)あ、婆に化けて、

婆ばこしらえて、そうして炊くちゅうたい、シュシュね。

婆ば炊く。炊いてから、

「婆の真似したよ」て言うて。

婆の真似して寝とるたい。そして、

「婆、今来たよう。来た来たよ」て言うて、婆の真似して寝とるたい。

「逃げ出()ゃあて、寝たかい」て。

そして尻尾を逃ぐるもんじゃい、あんた、婆の尻尾を下げて、

「婆ば食うた。婆食うたよー。棚の上の頭見ろ。奥の隅の骨見ろ」

て言うて、逃げて行くちゅうたい、狸がのう。

そうして、とうとう騙しとらんね、て思うち。

そうしてみたところが、ほんなこて、婆の目ん玉、棚の上にあるちゅう。

そうして骨がお荒神(くど)の隅。

頭がその、棚の上からポトンポトンて、落ちて来っちゅう。

そういてもう、一生懸命逃げて、浜さい下って石のかげ隠れたちゅう。

(出典 未発刊)

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