藤津郡太良町板の坂 山本シメさん(年齢不詳)

 あるところのお寺に和尚さんと小僧さんが住んでいた。

そこの境内には一本の枇杷の木が生えていた。

和尚さんはその枇杷の木をだいじにしていた。

そして枇杷は実った。

ある日、枇杷の熟た頃に、和尚さんは供養に出かけることになった。

和尚さんは、

「この枇杷を食ぶんなよ」と言って、出かけた。

小僧さんは、和尚さんから枇杷は食べてはいけないと言われていたけれども、

食べたくなってきた。

とうとう小僧さんは枇杷をちぎって食べた。

その日、和尚さんは供養先で出された酒に酔って、夜になって戻ってきた。

和尚さんはすぐ寝床にはいった。

小僧さんは、昼間ちぎって食べた枇杷の種を和尚の尻の中に入れた。

よく朝、和尚さんは二日酔い気味で境内に出てみると、枇杷が実っていない。

和尚さんは小僧のしわざに違いないと思った。そして、

「小僧!おまえは枇杷を食べたろう」と言った。

小僧はなに知らぬ顔つきで、

「いいえ。ゆうべ和尚さんのえろう酔うてきて、『

枇杷ば持って来い。枇杷ば持って来い』て、言んさったけん、

たくさんちぎってやったですよ」と言った。

和尚さんは酔うて覚えがないので、

「うそ言うな。自分な食べとらん」と、小僧さんに言った。

すると小僧さんは、

「それなら和尚さん、便所へ行たてござい」と言った。

和尚さんは小僧さんに言われるままに便所へ行った。

すると、尻から枇杷の種が、ぽろっ、と出た。小僧さんは和尚さんに、

「そら!みござい」と言って、とがめた。

そいばっかい【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話第一集 P234)

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