藤津郡太良町嘉瀬の坂 荒木誠馬さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

ある人が傘張りの弟子になった。

そして、夕立ちのくる時分に、

弟子は傘張ったのを乾かさなければならなかったので、干していた。

すると、急にひどい風が吹いてきた。

弟子は傘がふき飛ばないように、傘をつかみはじめた。

ところが、弟子は傘をつかんだまま、吹き飛ばされ、舞い上ってしまった。

そして、雲の上にはいあがった。弟子は地上に降りることができなくて、

雲の上をうろうろ歩き回っていた。そこへ雷さんがやってきて、

「おまえは、なんしに来たか」と聞いた。弟子は、

「おれは傘張りをして、干しよったら、吹き飛ばされ、舞い上ってしまった。

そいけん、おれば弟子にしてください」と、雷さんに頼んだ。雷さんは、

「よし。わい【おまえ】ばおれが弟子にするけん、おれが

『ゴロゴロゴロ』さるく【歩く】とき、わいは

『キンマツゲ、チャワンマツゲ、キンマツゲ』ちゅうて、売ってさるけぇ」と言った。

傘張りの弟子は、こんどはこうして雷さんの弟子になった。

雷さんが鳴るとき、光るものだから、その弟子が、

「キンマツゲ、チャワンマツゲ、キンマツゲ」と言って、売り歩いた。

雲の薄いところに来て、雷さんは落ちてしまった。そして雷さんは、

「おぅーい、おぅーい」と叫んびながら、舟に乗って天にあがっていった。

余り大声で叫ぴ動いてしまったので、舟はひっくりかえって松の木にひっかかってしまった。

弟子は舟を拾うて来て、

「おれは雷さんの舟ば拾うてきた。風引いたときは、

雷さんの爪ばせんじて飲むぎ、じき熱のさむっ」と教えた。

何回でもせんじてよかということだ。

(出典 佐賀の民話第一集 P228)

標準語版 TOPへ