藤津郡太良町嘉瀬ノ坂 荒木誠馬さん(年齢不詳)

 むかし。

たいへん屁をふる嫁さんがいた。

嫁さんは屁をふることをがまんしていた。

そのため顔色が悪くなっていくばかりだった。

とうとう嫁さんはがまんしきれなくて、姑がくさんに、

「屁ふろうごたっ」

と言った。姑がくさんは、

「屁ぐりゃいふらい」と、嫁さんに言った。

嫁さんが屁をふると、前の大根畑まで姑がくさんはふき飛ばされた。

姑がくさんは、更に屁でふき飛ばされようとするので、

大根の葉を握った。大根も動いてぬけんばかりだったと。

姑がくさんは嫁さんに、

「もう、わが家さい帰らや」と言った。

嫁さんは、とうとう姑がくさんにその家を出されることになった。

姑がくさんは嫁さんを実家へ連れて戻っていた。

その途中で反物売りと出会った。

反物売りは、梨の木の下で、たくさん梨の実っているのを見ながら、

「ほんにうまかごたんにゃあ」と、物欲しそうに言った。

そこを通りかかった嫁さんは、

「何をおまえは見とっねえ」と、反物売りに言った。

すると反物売りは、

「梨の実っとっとのうまかごとしとっ。ちぎりえん【ちぎることはできない】。

登りきらんけん、こんなにして見とっぎ、一つぐらい落ちてはこんかと、こんなにして見とっ」

と、嫁さんに物欲しそうに言った。嫁さんは、

「これくらいの梨をちぎっとに」と、反物売りに言った。

反物売りは容易にちぎることができるだろうかと、不思議に思いながら、

「あんたは登いゆっかあ」と、嫁さんに聞いた。

すると、嫁さんは反物売りにむかって、

「登りきらんどん、あんた、そがんとは・・・」と言った。

反物売りは、なお不思議に思いながら、

「どがんしてちぎるかん」と、嫁さんに聞いた。そして、反物売りは、

「あんたがちぎりきるなら、反物ばやっ【やる】」と、嫁さんに約束をした。嫁さんは、

「そんないば、あんた、あの石ば私の尻に当てんさい」

と言って、石を持ってきてもらった。嫁さんは、

「あんたは、あっけ【あそこへ】行たて見よんさい」と、反物売りに言った。

嫁さんは石に尻を当てて、大きな屁を

「プゥー」とふった。

石は屁でふき飛ばされ、梨の木に命中した。

梨はたくさん落ちてきた。

反物売りは約束したとおりに反物を嫁さんに渡した。

梨をめぐって、嫁さんは反物を受け取ることができた。

それだから、姑がくさんは、

「もう、家で屁ふってよかけん、まいっちょ【もう一度】戻ってくいやい【ください】」

と、嫁さんに言った。

嫁さんは屁で反物を得ることができたので、離縁にならずにすんだということさ。

そいばっかいのばんねんどん【それでおしまい】

(出典 佐賀の民話第一集 P230)

標準語版 TOPへ