嬉野町東吉田 中島末廣さん(明30生)

 むかし。

長崎県のお諏訪さんに、やぼ医者どんがいたそうです。

やぼ医者どんが、島原(しまばる)へ行った時、

子供どんが蛇をいじめていました。

やぼ医者どんが、可哀想に思って子供どんに、

「お前達、そがんしゅうよいか【そんなにするよりも】、

銭ばくるっけん、俺くいろ」と言いました。

子供どんは、お金をもらって喜んで、そこを立ち去りました。

ある晩、美しいお姫さんが、やぼ医者どんの家へ来て、

「いっちょ、私を嫁に持ってくんさい」と言いました。

すると、やぼ医者どんは、

「私ゃ、やぼ医者。こういうふうな、あぎゃんとじゃっけん、私ゃ、持たれん」

と言って、断りました。しかし、お姫さんは、

「やぼ医者でんよかけん、あなたの嫁にしてください」

と言って、お願いしたのです。

それで、やぼ医者どんは、お姫さんを嫁にした。

やがて、子供が生まれました。

ある晩、嫁さんが家の中で大蛇になって、夜に七たび化けていました。

やぼ医者どんは、夜中に目覚めて、嫁さんが大蛇であることに気づきました。

正体を見破られた嫁さんは、

「私ゃ、こういうふうで、あんたに助けられたけん。

そいけん、恩返しに来たとじゃいけん。

あの、見破られたけん、もう蛇の目の玉ばやっとぎとは【与えていると】、

しぶらすっぎとは【しゃぶらせると】、子供は泣きやむけん」と言って、

子供をおいて家から出て行きました。

子供が泣いても、その目玉をしゃぶるとおとなしくなりました。

そのことが、島原の殿様の耳に入って、

やぼ医者どんの家にある目玉がすり替えられたのです。

それから、島原の雲仙が崩れたそうです。

蛇は骨ばかりになりました。

その骨を持って行って祀ったのが、いまの諏訪神社であると。

[大成 一一〇 蛇女房]

(出典 嬉野の民話 P66)

佐賀弁版 TOPへ