嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

塩田(佐賀県嬉野町塩田町)に丸忠さんちゅう大きな呉服屋さんがありました。

そいぎ京都まで行って、もう反物の仕入れに京都まで上らした。

そうして、帰りがけに通り道に来たらもう、何か人待ちそうにこう、しとんなっさるから、

「あなた、誰か人をお待ちですか」と、人待ちそうにしてる人に、側に行ったら、

「あなた様を待っていました」

「私を。私を知っているね」

「はい。知っているどころじゃありません。あなたさんな塩田の丸忠さんでしょう」

「はい。そうですよ」と、言うことでねぇ、

「そいじゃ、私も鹿島(佐賀県鹿島市)の者(もん)だから、一緒に帰りましょう」

て言うて、二人帰って行ったんです。もう、丸忠さんは、

「あなたさんは初めて合いました。あなたさんを知りません」

「私はほら、こないだ子供が塩田川で泳いで、

三人ぐらい溺れそうになったのを助けてやったら、

じきー新聞に大きく書いて褒めてありましたよ」

「あらー、そうですか。私はねぇ、鹿島の森野作兵衛門という知らん人はありませんよ」

「私、ほんに、あのへんに住もうとって知りゃあせん」て、仲良くなって帰っ。

そして、道々して、

「こんなに道づいて良かったですねぇ。長い道中も早う着きました。

実は、こんなにお友達になった顔見知りは、これからお付き合いに、

私(あたし)の家(うち)にはお御馳走するから、今度の十五夜の晩に来んですかあ。

ぜひ、お出でください」

「あらー、そんならお伺いしよう」て、言うことで、丸忠さんは帰んさった。

そうして十五夜のきたから、そいぎぃ、あの、行かんばねぇ、と思うて、

そいでも森野作兵衛門と聞いたけど、わかるじゃろうかあ、と思って、鹿島に行って、

「この辺(へん)に森野作兵衛門ちゅうておんしゃろうかあ」て聞いた。

「ああー」て、言いなったぎぃ、

「もう少し先行って聞いてくんさい」て。

またズーッと行って、村の人に、

「私、森野作兵衛門さんからご案内を受けて、

『ぜひ、お客に来てくれ』ち言(ゅ)うことで、来ています。何処じゃろうかあ」

「ああ、あの森野作兵衛門も、ああ、わかった。

まちかっと行きんさっぎぃ、明々と灯りがついとっ。

じきわかるよう。

あの、明々と灯りのついたとを、そぎゃしこば目印にしんさい」

「そうですか。有難(あいがと)うございます」

そこに行ったらもう、大きな家で玄関からも、

こう灯りをつけてあって。中に入(はい)ったら、

「良(ゆ)う来てくださった。良かったあ。

あの道中を話して来たから、ほんに楽々塩田に着き、鹿島に着きました」て。

そうしてもう、大きなテーブルに立派いお御馳走を出してあって。

「みんな好きな物(もん)から食べてください」

て言うて、ものすごいお御馳走じゃったて。

そいでもう、いっぱいご馳走になって、

「ほんに大変、お世話になりました。

お御馳走も美味(おい)しかった。

こんなにお御馳走をしんさって、

私ゃ塩田で何(なん)ばご馳走しようかと思いますよ」

て言うて、丸忠さん、お暇したわけ。そいぎぃ、

「今度どま、十五夜には、この次の十五夜には、

作兵衛門さん、私の家(うち)に来てください」て。そいぎぃ、

「はい。間違いなく、お呼ばれに参ります」ち言(ゅ)うて、帰ったて。

そいぎぃ、

「今度はあぎゃんご馳走しわえんごたっ。

あいどん、何(なん)ばご馳走してよかやろうか」て,話しよったら、

「そいぎまた、鹿島に行って聞いてみゅう」ち言(ゅ)うて、

家(うち)ん者(もん)が言うたら、鹿島に行たて、

「こないだ、私は家を訪ねて、今度は私が、お呼びばせんばらんけんが、

作兵衛門さん方に行ったらもう、ありとあらゆるお御馳走ばしてあった。

あんなご馳走してあったけど、あんなにはでけんけど、

作兵衛門さんは何(なん)ば好いとんさっやろうかあ」て、聞いたら、

「ああ、作兵衛門にご馳走すっとない、鼠のてんぷらがいちばん好物」て。

「鼠のてんぷらばしときんさい」

「あら、鼠のてんぷらばですか」

「はーい。作兵衛門さんは、そいが大好物よ」

聞いてきたから、

「そいよい」ち言(ゅ)うて、天井は閉めまわしとっから、

鼠は沢山(よんにゅう)おろうだいと思うて、

「さあ、鼠を捕ろうで」言うて、もう一匹もおらん。そいぎぃ、

「溝鼠(どぶねずみ)でんどうあろう」と言うことで、

「もう子供達も手伝え」て言うて、もう、あっちこっち、もう溝掃除をして、

やっと五匹ばっかい鼠を捕まえて、そいばてんぷらにしたて。

そいぎ作兵衛門さん、ニコニコしてやって来たけど、大きなお皿に載って鼠のてんぷら見て、

「丸忠さん、あなた、私も人間並みの付き合いばしてください」て、

言いながら、その鼠のてんぷら美味(うま)そうに食べて帰られたて。

そいぎわかった。

そいばあっきゃ。

我が、狐と思われたと思うて、ガッカリして

「人間並みの付き合いばしてください」て、言んさったて。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P818)

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