嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

大工さんが仕事がすんだもんじゃい、夜(よ)さい遅(おーそ)う帰って来おらいたぎね、家(いえ)の近くに川に来たて。あったぎぃ、怖(えす)かごと太かごと大入道の出て来たちゅうもんねぇ。そいぎぃ、川ん端でぎゃん化け物の出(ず)っとないば、河童に違(とぎ)ゃあなかあ、と思うて、我が道具箱から金槌ば出(じ)ゃあて頭めかけて、

「こっ畜生(ちきしょう)ー」て、叩(くら)せんしゃったぎぃ、叩せても叩せてもまだ大入道の生きとって。

そいぎねぇ、どぎゃん叩せても効き目のなかもんじゃいけん、この大工さんも仕舞(しみゃ)あに怖(えず)うなってさ、一目散に走って我が家(え)さい早(はよ)う帰んさったて。あーったぎぃ、もう大工道具どまそこん辺(たい)ほっ散らきゃあて、家(いえ)に帰ってみんさったぎぃ、自分の家(うち)帰って布団ばひっ(接頭語的な用法)被って寝んさった。そうして人に話しんしゃいに、

「あぎゃん怖(えす)か目合(お)うたとは、初めてやった」て。「あつこの川ん端ば夜(よ)さい暗(くろ)うなってから、通んもんじゃなかばーい」ち言(ゅ)うて、語らしたて。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P775)

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