嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 昔話よー。

お酒屋さんがあったちゅう。そいぎもう、夕方まで大抵人の買(こ)うてしもうて、

「もう大(うう)戸(と)も閉めんばねぇ。もう夜も更けたけん」て、言う時なってから、

「お酒をください」ち言(ゅ)うて、小(こま)ーか六つ七つぐらいの男の子の酒瓶ば下(さ)げて来(く)っちゅうもんねぇ。

「あら、今もう戸口ば閉めおったあ」て。

「あいどん、酒ば一升(いっしゅう)ください」て言うて、お金も一升分がと、お金ば出すてぇ。

ところが、下げとっとば見っぎねぇ、五合(ごんごう)ぐらいしか入らんごたっ瓶、酒瓶てじゃん。酒徳利てぇ。

「あら、こりゃ五合ぐらいしか入らんよう」ち言(ゅ)うぎぃ、

「いや、おじちゃん入れてんしゃい。一升ちゃーんと入(はい)れ」て、酒ば入れたぎぃ、底の分ばっかい、チャラチャラって、半分ばっかいて。あら、こりゃ一升入っとばいねぇ、と思うて、

「やっぱい、そうじゃったあ」ち言(ゅ)うて、一升量って入れたら、スカッと入(はい)ってしもうたてぇ。帰って行ったてぇ。

三日ばっかいしたら、また、

「お酒ください」て、やっぱりこの前んごともう、誰(だーい)も来(こ)んけん寝んばあーて、いう時分に、男の子が来(く)ってじゃんもんねぇ。「酒徳利に一升入れてでん余(あま)いよっ」て、その坊主は言うて。

「困ったにゃあ。水物(みずもん)じゃっけん、こぼるっよっ」ち言(ゅ)うぎぃ、

「大丈夫。世話焼やかんでいい」て。「小父ちゃん入れてごらん、入(はい)るよう。一升入れても余いよっ」て、その子供は言うから、「お金も、チャーンと一升分やるよっ」ち言(ゅ)うて、やった。

そいぎぃ、五合しか入(はい)らんけどなあ、と思うて、まず五合枡(ます)で量って入れたら、もう少し下げて。そして、

「一升ください」ち言(ゅ)う。

この前んことのあったもんだから、一升チャーンと量ってやったぎぃ、チャ-ンと一升まえお金ばやって帰って行くてぇ。また四、五日したら、またもう、寝ようと思うて、戸を閉めよったら、

「おじしゃん、おじちゃん、まだ閉めんで、来たよう。お酒一升頂戴」て言う。

そいぎいやっぱい、何時(いつ)もんごと量ってお金も当たい前払って行く時、こうして見たら、おかっぱをしている上に、皿のあったけん、

「あら、あれは河童じゃったばーい。河童が酒買いに来よった。そいぎぃ、皿の中にもこい、水物の入っもんねぇ」て言うて、酒屋さんは、ああ、河童が酒買いに来おったて、いうこっちゃったあ。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P774)

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