嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

何処(どっ)から来(き)おんさいどん、赤(あっか)旗どん掲げて、ひゃんぶんの辺(にき)から、犬猫屋さんちゅうて、薬(くすい)売いさんの来おらした時のあったと。その犬猫屋さんの囃(はや)しはね、面白かもん。ドンドンジャラジャラ、チンチンカンカン、太鼓も叩き鈴も振り回し、鉦まで鳴らし、そうして踊っとのまた手振いの良か。そいぎ誰(だい)でん「犬猫屋の来たあ」ち言(ゅ)うて、子供でん大人でん、もうぞろい集まって、そうしてそん人達ゃ、塗り膏薬(ごうやく)てん、貼(はい)薬(ぐすい)てん、腹薬てん、目薬でん、何(なん)でん持っとんもんじゃい、寄って来た者(もん)な、そぎゃんとば買わされおった、ねぇ。

そうして、そぎゃんとばひとせん(一気ニ)売るぎぃ、また次の部落さん行きおらしたと。宿さん、宿ていう町の向こう、こうあっ所さん行たい、山方部落に行ったい、東(部落名)ちゅう所(とこ)さい行ったいしおったて。あったいどん、子供まあ薬どんは買わじも、面白かもんじゃい、何処(どこ)まっでん、その、犬猫屋さんは追いかけてつんのうで、「さあ、さあ」ち言(ゅ)うて、行きおったちゅう。

そいぎぃ、そん薬売いさん達ゃ、やぐらっしゃあ(ウルサクテ)大方、鼻たれやら、涎たればあっかい来んもんじゃい、仕舞(しまり)ゃあ「東南西、東南西」て、言いおらした。そいぎおっ母(か)さんな、

「薬売いさん達ゃ、気の利いといやっ」て。「どぎゃんこってん、子供(こどめ)ぇ言うには、『太うなんさい(東南西)。太うなんさい。太うなんさい』て言うて、あっちさい行きやっばい」て、おっ母さんの言うて話さしたぎぃ、そいば聞いとっお父(とっ)たんな、「腹立つ、腹立つ、ふうけ者どんが、嬉しがる者(もん)があっかあ」ち言(ゅ)うて、父(とう)ちゃんな腹立てらしたて。そいぎぃ、おっ母さんな、

「なしてぇ。『太うなんさい。太うなんさい』て、言わるっとの、なして良(ゆ)うなかあ」て、言いよったぎぃ、

「何(なん)て思うとっかあ。お前(まえ)達ゃ、『汚かあ。汚かあ』て、言われて、そぎゃん嬉しかかあ」て、言わしたて。

東南西て言うとに、北のなかもんじゃいねぇ。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P589)

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