嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある所にねぇ、ある女がさ、とても月の明るい晩じゃったけん、

「今夜、西瓜泥棒に行こうかあ」ち言(ゅ)うて、背中に赤ちゃんば背負って出かけたて。ビクビクしながら、あれが良かろうかにゃあ、こいが良かろうかにゃあ、と思うて、西瓜に手をヒョロヒョロかけよったちゅう。お月さんの美しか夜(よ)さいやったて。女はねぇ、誰(だい)じゃ見おりゃあしおんみゃあかにゃあて、しょっちゅう気にしとったて。そうしてねぇ、

「まさか誰も見よんみゃあねぇ」て、独り言を言うたちゅうもんねぇ。あったぎさ、ものを言いえん背中の赤ん坊がねぇ、

「空でお月さんが見よんさっよう」て、言うたぎぃ、ビックッてして、西瓜に手をかけておったいどん、手を離(はに)ゃあたて。ああ、子供の言いおんのに、こぎゃん愚か泥棒しちゃいかんなあ、と思うて、我が心に我が恥ずかしくなって、後悔してそのまま西瓜は盗(と)らじ帰って、泥棒すっことは恐ろしかあ、と思って、そいからパッタイ西瓜泥棒せんごとなったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P589)

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