嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
奥山に暮らしおった親と子がさ、城下町さいやって来ました。そうして、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロ、見物して回いおったちゅう。そうして、ズーッと、とうとうお城のあっ所(とこ)まで来ましたてぇ。
そうして、子供がお城ば指しゃあて、
「お父(とう)、あれは何(なん)じゃろうかあ」て言うて、聞きんしゃったぎぃ、
「あれなあ、あれは、お城ちゅうもんだよ」て。
「ああ、『お城』て言うと、こいかあ。何すっ所だっぺぇ」て言うて、その子が聞いたぎねぇ、
「お城はなあ、お殿様がおらしっしゃる所だよう」て、お父が言うたて。そいぎぃ、
「『そん殿さん』ち言(ゅ)うとは、何(なん)仕事ばしよっとかなあ」て、聞いたぎぃ、
「ああ、殿さんはなあ、何(なーん)もせんで、お代官様の親方しおんしゃっ」言うて、聞かせたて。
そいぎぃ、
「『お代官様』ち言(ゅ)うとは、何しんしゃっとう」て、聞きんしゃったら、
「ああ、お代官様か。こんなして壁ば塗んさっと。そいけんなあ、殿さんは、その左官の親方だよう」て言うて、聞かせた。
「ああ、そいでわかったあ。そいで、城ばいっぱい真っ白塗っちゃっ所(とけ)ぇおらすもんなあ」て言うて、その子は承知したて。
そいばあっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P586)