嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にねぇ、怠け者(もん)がおったてぇ。そりゃあ、仕事ば好(す)かじ朝から晩まで、ノラリクラリと遊ぶことばっかい。もう家(うち)の手伝いどま誰(だい)でんしおっとこれぇ、その男はもう、仕事どま何(なん)いっちょでん目(め)ぇからじぃ、遊んでばっかいおったて。

そいぎぃ、その男が、ある日のことねぇ、もう一日中遊びよって、ブライブライ帰よったぎ道端に、小(こま)ーか壷の落ちとったてよう。

「ありゃ、小ーかいどん壷のあったにゃあ」ち言(ゅ)うて、見つけて、「『犬も歩けば棒に当たる』ち言(ゅ)うことは、こがんこったーい」ち言(ゅ)うて、そいば早速拾って家(うち)持って帰ったて。

そいぎぃ、その壷ん中からさ、小さか小さか男ん出て来て、小さか小さか声でねぇ、

「私(わし)は、お前さんのように遊び人が大好きさあ。一緒に暮らそう」と、小(こま)ーか声で言うちゅうもん。

怠けた男は、その小ーか男を珍しゅうして、手に取ったい横ににゃあたいして、一時(いーっとき)ばっかい遊びおったいどん、そいも飽(や)あたて。そうして、あくる日なったぎぃ、その小ーか者と壷を家に残したまま、またブラッと、遊びに怠け者は、行たてしもうたてじゃんもんねぇ。そうして、あっちこっちほっつき回って(アッチコッチヲ回ッテ)遊(あそ)うで、その男がねぇ、小―か男ん子のこと忘れて、夕暮れになって、家(うち)帰ってみた。あったぎぃ、座敷に帰ってみたぎ見知らん男が大(だい)の字になって、グウグウ、グウグウいうて、鼾(いびき)きゃあて寝とったちゅう。そいぎねぇ、あの拾って来た壷ん中の、小ーかそりゃ男じゃって。そうして、どうしてまた太うなったじゃろうかあ、と思うとったぎぃ、その男がムックリ起きて来て、

「お前(みゃ)あみたいに遊んでくれる時ゃさ、私(わし)の体ばそれ、ぎゃーんなんぼでん太うなったい。あんたんごと怠くっぎぃ、私(わたくし)の体んごと太うなっとう。私(わし)に有難いことだい。こいからも、よう遊んで来てくれー」て、そいが言うたて。

そいぎぃ、怠け者は遊び癖のついとっもんじゃい、そいからも来る日も来るも、遊びにばっかいほっつき歩きよったて。そいぎぃ、我が家(え)帰っぎぃ、その男がまたグングン、グングン大きくなって、遅(おす)うにはさ、家(うち)いっぴゃあになって、もう足どま外さい出(ず)っごと太うなっとっ。そいでも怠け者なもう、何(なん)でん怠け癖のちいてさっ。その壷ん中の太うなった男の膝ん辺(にき)ピョコッとひっかごうで寝とったちゅう。寝る場もなかごと太うなっとったて。

そんなこともしよったぎねぇ、その怠け者の隣(とない)の家(うち)でどうしても人数が一(ひと)人(い)足らんで、仕事の手伝いば一(ひと)人(い)欲しか時になったちゅう。そいぎぃ、怠け者の家(うち)に来て、隣(とない)のおばさんが言うには、

「どうぞ、人手が足らんけん明日(あした)一日でん良かけん、私ん家に手伝いに来てくれんかねぇ」て、頼みに来(こ)らしたちゅう。

そいぎぃ、その怠け者な仕方なし渋々隣に手伝いに行たちゅう。そいぎぃ、隣では恐ろしゅう喜んで、

「ほんにお陰で助かいました。一(ひと)人(い)おらんぎ今日(きゅう)の仕事はでけんはずじゃったあ」ち言(ゅ)うて、「こりゃ、ほんなしるしです」て、帰りにゃ金までくいて帰しんしゃったあ。

そいぎぃ、怠け者なお金を貰うたことは初めてじゃって、恐ろしか嬉しかった。こぎゃんこっじゃろうかあ、と思うて、

「良かぎぃ、明日(あしちゃ)あも私(あたい)が手伝いに来ても良かばい」て、言うたぎぃ、そこん家(うち)ではほんに気の毒に思うとったいどん、とても喜んで、

「どうぞ、家(うち)に来てください」て言うて、頼んでその日は帰ったて。

そうしたところが、家に帰ったぎぃ、あの家におった男がさ、ちぃった小(こも)うなっとったちゅうもん。そうしてねぇ、隣の家が何(なん)の仕事じゃったいろう、まあ一(ひと)人(い)手いる仕事ばっかい、四、五日も続いたて。そいぎぃ、その怠け男は四、五日もちい稼ぎに行たちゅう。あったぎねぇ、そん男は我が家(え)帰って来(く)ったんびに壷の男の小(こう)もなってさ、言うことにゃ、

「私(わし)も、もう一度あの壷に入れてくれやあ。そうして、壷に入れて道端に捨ててくれぇ」ち言(ゅ)うたてじゃんもんねぇ。

そいぎねぇ、その男は壷に、そがん言うもんじゃっけん、よそん悪かにゃあと思うて、壷に入れて、そうして、あった所(とけ)ぇ道端に置(え)ぇとったて。

あいどん、そいから先ゃね、誰(だーい)もその壷ば見(め)ぇかかって拾う者のなかったて。誰でん、その如く忙しゅうして、誰でん怠け者は一(ひと)人(い)もおらじ一生懸命働きおったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P575)

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