嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

山ん中からねぇ、一(ひと)人(い)の爺さんがさ、町へ出て来んしゃったて。そうして、あっちゃこっちゃあ見物して回いよったぎぃ、帰りにゃさい、みやげないどん婆さんに買(こ)うて帰らんばあ、と思うて、見おんしゃったぎさ、みやげ屋ちゅうとば、こうして見おんしゃったぎぃ、「二つで一文」ちゅうとの目についたてじゃんもん。そいぎぃ、こいが安うして良かばい、と思うて、

「こいをください」て、言うたら、

「ああ、こいをですかあ。これは去年の暦ですが、いいですかあ」て、店ん者が言んしゃったいどん、

「いい。何(なん)でもいい。これがいい」ち言(ゅ)うて、「二つで一文」ちゅうとば、買うて帰んしゃったて。

そうして、家(うち)帰ってから婆さんにねぇ、そのみやげ物ば広げてみせんしゃったぎぃ、婆さんが言んしゃっには、

「家(うち)にゃ去年の暦がまあーだあるけど、余(あんま)い傷(いと)うでもおらんけど、また去年の暦をお爺さん買(こ)うて来たなあ」て、言んしゃったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P575)

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