嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

めったに部落から出たごとなか男がさ、京都に本山詣(みゃ)あすっごとなんしゃったちゅうもん。そいぎぃ、男は、

「京さい上っけん、何(ない)なっとん良か物ば、誰(だれ)ーでん配っごとみやげは買(こ)うて来(く)っぞう」ち言(ゅ)うて、一軒一軒、「上方参りに行たて来っけん、皆さん元気で」て、挨拶(あいさつ)して回って。そうして、餞別にお金てん薬(くすい)てん、反物まで貰うて、

「心ばかいの餞別じゃ」ち言(ゅ)うて、皆さんから貰うて、京さい行きんしゃったちゅう。

そいぎぃ、その男は京から何(なん)ばみやげにしゅうかあ、て考えんしゃったぎぃ、何(なん)でん高(たっ)かし、買(き)ゃあえんとばっかいやったて。こりゃ、良かみやげと思うとったとは、いっちょんなかったてじゃんもんねぇ。そうして、とうとう何も買(か)わじぃ、ちぃ(接頭語的な用法)帰ったぎぃ、余(あんま)い気の毒(どっ)かもんじゃっけん、藁の芯ば一寸ばっかいずつ切って、それ、熨斗(のし)ばつけてさ、

「こりゃ、京で有名なしびれ薬(くすい)でござんすっ」ち言(ゅ)うて、配って歩(さり)いたちゅうもん。村ん人達ゃ、

「あの男のしたことがあ。足のしびれ薬に藁ば、額につくっぎ治(ゆ)うなっごと知っといどん、こんくりゃあなことをして」ち言(ゅ)うて、皆が笑いぐさになったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P574)

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