嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 恐ろしゅう寒か晩じゃったてぇ。

夜(よ)さい遅(おそ)うに、トントン、トントンて、

誰(だい)か戸を叩くてじゃんもん。

そいぎぃ、

そこはお爺さんとお婆さんと二(ふた)人(い)暮らしじゃった。

「今晩のごと雪の、大雪の晩に誰(だい)じゃろうかあ」

ち言(ゅ)うて、お爺さんが外さい出て見たら、

きれーいか女の真っ白か着(き)物(もん)ば着て、

ショボーッと立っとったちゅう。

そして言うことにゃ、

「私は親の言うことば聞かんけん追い出されて、

行く所ありまっせん。今晩一晩おいてください」

て、頼んだて。

お爺さんな、

「良か良か。今夜うちで過ごすぎ良か。

ぎゃん寒かけん、早(はよ)う入(はい)んなさい。

もう囲炉裏も消して私(あたい)どま寝とったばーい」

て言うて、言んさったて。

「あいどん、寒か時ゃねぇ、火がいちばんご馳走じゃっけん、

今に焚きつきゅうだい」て言うて、火ば焚きつけんさったぎぃ、

その若(わっ)か女(おなご)は部屋の隅ん方にショボッて座って、

火の側(そび)ゃにはいっちょん寄いつかんてじゃんもん。

「こっち来(き)てあたんさい。温(ぬっ)か所(とこ)が良かよう」

と、お爺さんの言(ゅ)うよいどん、いっちょん来(こ)んて。

そして、

「私は寒くなんかありません」て、言うてじゃんもん。

お爺さん、若(わっ)か者(もん)なそぎゃん寒うなかとやろうかあ、

て思うとったて。

「そいでもう、ほら、布団もこけぇ出してやったと、

それ包(くる)まって休んでくんさい」て言うて、

お爺さんお婆さんは休んだて。

じゃあ、

朝になってみてみっぎぃ、もうあの娘さんおらんち。

見えんちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

戸ば開けてみたぎぃ、雪が真っ白積もとったちゅう。

そいぎ

お爺さんな、ほんに雪の降っ時、何時(いつ)帰ったろうかにゃあ、

と思うて、娘さん座っとった部屋ん隅の方ば、

こうこうして見よったぎぃ、

何(なん)じゃいシトシトと濡れとったちゅう。

お爺さんとお婆さんな、

「昨夜(ゆうべ)泊まいぎゃ来た娘は、

ありゃあ確か、真っ白か着物(きもん)ば着とったけん、

雪女じゃったとばーい。

ほんに見たごともなかごと、

真っ白か女(おなご)じゃったもんねぇ」

「そうですばーい」て、二人は語いよったちゅう。

そいばあっきゃ。

[補遺三七 雪女(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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