嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ちぃった足らん聟がおんさったちゅう。
余(あんま)い正直過ぎとった人じゃったて。
そいでその、聟さんがお嫁さんの所にねぇ、
正月参(みゃ)あしぎゃ行きんしゃったちゅうもん。

そいぎぃ、
嫁さんの家(うち)ではねぇ、
「聟さんの来(き)んしゃったあ」ち言(ゅ)うて。
そうしてもう、
お膳にしいゆっしころ(デキツダケ)ご馳走してやんもんじゃい、
持って来て座敷に運びんしゃったちゅうもん。
そうして、
やや一時(いっとき)ばかいしたぎんとにゃあ、
お汲い物も出てきたて。

そうして、
「さあ、どうぞ、どうぞ」て、言んしゃったて。
そいぎぃ、
お聟さんな大抵(たいーち)ぇ遠か所(とっ)から
歩いて来(き)んしゃったけん、
お腹(なか)はペコペコしとんしゃったちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、
もう、汲い物にそくといたて(早ク手ヲノベテ)
いたて、口いっぱい吸い物ば食いんしゃったて。
ところがもう、
煮えたぎった吸い物の熱(あつ)うして熱うして、たまらじぃ、
口いっぴゃあ火傷しんさったちゅうもん。
そいぎもう、
「ぎゃんこたなかったあ。
ほんに口ん中(なき)ゃあいっぴゃあ火傷したばーい」て言うて、
そん時の熱かったことが、
何時(いつ)まっでん忘れじおんしゃったて。

その聟さんがねぇ、ある家(うち)に
お客に呼ばれて行きんしゃったちゅうもん。
そいぎぃ、お酒の出たて。
そうして、
側にな(、)ま(、)す(、)があったちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、
誰(だい)てん隣(とない)ば見っぎぃ、
じきな(、)ま(、)す(、)に手をつけよっ。
ありゃ、こいから先食べんばらんもんたあ、と思うて、
食べてみよったぎぃ、
そのな(、)ま(、)す(、)取ったぎぃ、また熱かろうだい、と思うて、
フッフッフッちて、もう一生懸命吹いて、
そうしてもう、
長いこと吹いてから、そうして食べらすちゅうもん。
そいぎ、友達ゃ、

「何(なーん)でまた、そがん吹きおっとう。何でそぎゃん、
な(、)ま(、)す(、)ば吹きおったあ」て、聞きんしゃったぎぃ、
「口ん中の火傷せんごと」て、言わしたちゅう。
「冗談(ぞうーたん)のごと」て、言んしゃったいどん、
そいが耳入らじぃ、まあーだフゥフゥフゥフゥ吹いて、
な(、)ま(、)す(、)を食べらしたて。

そういうことですよ。

              (出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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