嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にねぇ、お爺さんとお婆さんと二(ふ)人(たい)暮らしよったが、

冬の日でもーう、

その年は雪が降ること降ること、酷う降る日ばっかいやった。

そいぎねぇ、

その晩、

「もう、こんな寒い晩な早(はよ)よう寝る」て言うよったら、

寝ようてしかかったら、表(おもて)トントン、トントンて戸を叩く。

ぎゃん冷(ひ)やかけ誰(だい)が用事やろかあ、と思うて、

お爺ちゃんもお婆ちゃんも二人ががいで戸ばサーッて開けたぎねぇ、

外に、

「この子供をお願いしまーす」ち言(ゅ)うて、

小(こま)ーか声で言うて、

お爺さんにそのきれいか女の人の赤ん坊を渡して。

そうして、

そう渡しよっ時(とけ)ぇ、酷ーう吹雪のきて、

雪の、その女の人ごと持って行ったて。

「姉(ねぇ)さんやー。姉さんやー」ち言(ゅ)うて,

お爺さんもお婆さんも呼んだけど、

とうとうその赤子ば頼んだ姉さんの姿はなかったて。

「あらー。吹雪の連れてはっていったあ」て言うて、

「あいどん、この子ないと良かったー」ち言(ゆ)うて、

お爺さんとお婆さんは、

そいからその女の子を大事に育てんしゃったぎぃ、

もう雪の日に貰(もろ)うた子じゃったけん、

色の白うしてチョッと可愛い子どっこて。

もう、お爺さんもお婆さんも、「ジャンジャン」ち言(ゅ)うて、

その子をねぇ、育ておんさった。

そいでもう、器量良しであるし、

その子はもう、とても立派に育ってねぇ。

あの、皆、もう評判の娘じゃったて。

そして、七つになった時にね、お婆さんは春祭いに行たて、

その娘に何時(いつ)も

「簪(かんざし)の欲しか。簪の欲しか」て、言うもんだから、

セルロイドの赤ーか簪ば、あの、買(こ)うて

お婆ちゃんの祭いから買(こ)うて来(き)んしゃったて。

あったぎ、

そいば嬉しがって一日(いちんち)でん忘れじぃ、

この娘はその簪を刺して喜んどった。

ところが、

その、いっちょ気になっとはその娘は、

「風呂嫌い」ち言(ゆ)うて、

いっちょん風呂入らんてじゃもんねぇ。

あいどん、また秋のお祭いがきたもんだから、

「お祭いに行くぎ何(なん)でもあるぞう。

お前の好(し)ぃたとは買(こ)うて良か。

そんかり(ソノ代ワリ)、今日はお風呂に入(い)って、

そしてきれーいになってぇ、

神さんな垢(あか)のつかんとが好いとんしゃっけん、

立派に身体をなして、きれいか着物(べべ)ば着すっけん、

きれいか着物(きもん)ば着てお参りしゅう」ち言(ゅ)うて、

お婆さんがお祭いの、秋祭いの前の晩、お風呂に入れんしゃった。

何時(いつ)までたっても、

お風呂から上がって来(こ)んちゅうもんねぇ。

「あらー。どがんしたとやろうかあ。

ほんに、折角風呂に入れてぎぃ」

て言うて、余(あんま)いお風呂が長(なん)かもんだから、

お婆さんがお風呂ば覗いてみんしったぎぃ、

お風呂にはあのきれーに、

娘の大好きじゃった赤い簪が浮かっとっだけじゃったて。

そいぎぃ、お爺さんとお婆さんは顔ば見合わせて、

「ああー。あの子の風呂は嫌いだったのは、やっぱいねぇ」

て言(い)うて、

「あれは雪女だったばあーい」ていう話。

二人で顔を見合わせて語った。

そいばっきゃ。

[補遺三七 雪女]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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