嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 今、暑(ぬっ)かとところに、「雪女の話」をします。

「雪女」ちゅう題で。

むかーしむかし。

村にねぇ、お父さんと子供がおったて。

お父さんは樵(きこり)さんやった。

ある冬の日、山で木ば切い倒ししとんさったぎぃ、

そのうちトップリ冬の日が暮れてしもうた。

そいでねぇ、

何時(いつ)も休すんどった山小屋に、その晩な

「もう家(うち)さい帰らじこけぇ

(ココ)で泊まっていっちょこう(オコウ)」ち言(ゅ)うて、

父(おっ)と子供は、その小屋で雑炊どん作って食べとって、

そうして食べおったぎぃ、

もう外はドンドン、ドンドン雪の降って、大雪じゃったてぇ。

あったぎぃ、

そん時ねぇ、あぎゃん雪の降る時、ドンドン、ドンドンて、

戸を叩く者(もん)のあったちゅうもんねぇ。

戸ば開けたぎぃ、一(ひと)人(い)のきれいか娘の入(はい)って来て、

「寒くて寒くて、行き所(ところ)がなかごたっ」て言うて、

入って来たてぇ、ねぇ。

そいぎぃ、

「良か時、来たあ」て言うて、親子の者(もん)な、

「ほら、今雑炊作いよった。この雑炊を食べなさーい」

て、言うたぎぃ、

「あなた、良いところに来たあ」ち言(ゅ)うて、雑炊いただいて、

その、女の人は食べたて。

そうして、

お父さんば見て、

「あなたは腕の立つ樵さんだねぇ」て言うて、

マジマジとおっ父(とう)さんを見よったて。

そうして、

白ーか雪ばねぇ、もの言いながら、

フウフウって、吹きつくってじゃんもんねぇ。

そいぎその、

子供の息子が、

「お前(まえ)は誰(だい)だあ」て言うて、

もう余(あんま)い白か雪で、言おうとしたいどん、

声のいっちょん出んて。

そいぎ

その様子ば、誰(だい)だと言うた、様子ば見た娘の、

「今度こうして、私にここであったことを話しぞんすっぎぞう。

ヒョーッとちぃ話すぎぃ、お前(まえ)の命はなかぞ」

て、言うたかと思ったぎぃ、その娘の姿は消えてしもうて、

おらんごとなったてぇ。

そいぎ即座に息子は、不思議かったなあ、

と思うたとといっしょに、ビックイもしたて。

あったぎぃ、

そこの死んだようにお父さんが眠っとんもんじゃい、

「お父(とっ)たん、お父たん、父たん」

て言うて、揺すいあげて、

娘の消えたばい。

あぎゃん知らん者(もん)ば家(うち)入れることなんじゃったあ。

恐ろしかった、と思うて、お父(とう)さんの体を揺すったら、

とうとう眠ったようにして、

お父さんの体は、とうとう冷とうなって死んどったてぇ。

そいぎ夜の明くんのば待って、

お父さんの体を背負って家(うち)に帰らしたて。

そうして、寂しい寂しいお弔(とむら)いを、その息子はしたて。

そいから先ゃ、

息子は一(ひと)人(り)口(ぐち)やったてじゃんもんねぇ。

そうして瞬(またた)く間(ま)に、

あいから三年も経った冬じゃったて。

恐ろしか、その三年も経ったその日、冬に、

また酷か雪に、その村は見舞われて、

山の仕事も雪ばっかいで、もう十日も行かじおったて。

そうして、

あらあー、また今夜も大雪だあ、と思うとった時、

表(おもて)の戸をトントントンて、叩くてじゃんもんねぇ。

そいで

戸を開けたぎぃ、

そこに若(わっ)か娘がションボリ立っとって、

「私(あたし)が旅の者(もの)です。

行くはぐれまして、この雪で行きはぐれまして、

一晩でいいから泊めてください」

て、頼むちゅう。

そいで息子は、

「俺(おら)あ、独り者で何(なん)のご馳走もできねぇ。

少し先の方に行くと、何軒でん他所(よそ)の家(いえ)があるよ」て。

「そっこまで、お行き」て言うて、戸ば閉めようとしたら、

娘は疲れ果てたごとして、ガックリともう、

戸の戸口ん所(とけ)ぇ座ってしもうたて。

そいぎ

息子も優しかったもんじゃい、見るに見かねて、

「そいじゃ」ち言(ゅ)うて、自分の家(うち)に連れて来て、

「残いのお粥なっとん、食べなさい」ち言(ゆ)うて、

仕方なく勧(すす)めて、その晩はそこに泊まったて。

ところが、

あくる日も雪降(ぶ)りじゃったて。

雪が三日も、大雪じゃったもんじゃい、

とうとう娘は家に泊まっとったて。

そして、ボツボツ語るには、

「私には親も兄弟も、一(ひと)人(い)もおりません」

て、しおらしく言うて。

あったぎ息子も、

「俺(おら)も、父(おっ)も死んで独り者(もの)です。

もし良かったら」て、

きれいかしおらしか娘じゃん(ダ)ということで、

とうとう二(ふ)人(たり)夫婦になって。

そのうち五人もの子供までできたて。

村ん人達は、

「あつこの嫁は、五人の子持ちになっても、

一年前も村に来た時と、いっちょん変わらじぃ、美しいなあ、

きれいだなあ」て、言わん人はなかったて。

そうした冬の日に、

子供の着物を縫う嫁さんの顔の美しさに、

その息子も見とれとったが、

暇じゃったもんじゃい、フッと、言い出(じ)ゃあたてぇ。

十年前の晩のことだったて、言い出ゃあたとは。

息子が言うには、

「思い出すよう」て。

「こんな雪のコンコン、コンコン降る日のことやった」て。

「お父(とっ)たんな樵じゃったが、

山で夜遅(おそ)うに尋ねて来た女の人から、

白い雪ば引っかけられて、とうとうお父たんな死んでしもうたあ。

あの女の人も、ほんにお前(まえ)のように美しい女やったあ」

て、そこまで息子が言うた時、

今まで子供の着物を縫っていた嫁さんが、

そっくと(急ニ)立ってね、

「とうとう、お前(まえ)喋ったのうー」て、言うたあ。

そして、

「約束を破ったからには、今に、お前さんの命を取るところじゃが、

子供が五人もいるから、そいもできん。

お前様と今がお別れじゃあ」て言うて、

言葉ば終わらんうち、とうとう姿も形もなくなってしもうた。

その女も雪女で、雪の精じゃったあ、ねぇ。

姿は掻き消えるようになってしもうたあ。

チャンチャン。

「笑話新五 しまが女房 (CF.AT一三六二)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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