嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

長者さんの家(いえ)に

いっちょん子供の生まれんやったてやんもん。

ほんーに後継ぎに欲しかとこれぇ、

なし家(うち)は子供の生まれんやろうかあ、と思って、

そいがいっちょの悩みの種やったて。

あったぎ

長者さんが四十にならした時ばい、

ようよう男の子の生まれたて。

「ああ、坊ちゃんが来た。可愛いか。

家(うち)の後継ぎじゃ。

こりゃ、俺の後継ぎの長者さんになっとじゃあ」て言うて、

「こりゃあ、やっと生まれた子じゃっけん、

俺の後継ぎば是非ともしてくれじにゃならん。

長生きばいちばん願うとこ。

そいぎどがんしたろうかなあ。

長(なん)か名前ばつくっぎぃ、長生きすってやろう」て言うて、

その、何処(どこ)てじゃい

長者さんの聞いて来んさったもんじゃっけんねぇ、

「こりゃ、長か名前が良かあ」て。

「どぎゃん名前ばつけようかあ」て、いろいろ考えに考えた末、

やっと決まったことが、

ソロリソロリノソウエモン、コノコハチョウメイノチョウエモン、

こりゃあどがんなあ。

もう長命ば願うとっけん、長命の長衛門。こいどがんなあ」て言うて、

ああー、こぎゃんついた名前ば持った者(もん)は、

長生きすんに決まっとっ」て言うて、我が達は

「良か塩梅(んばい)」ち言(ゅ)うて、

喜びんしゃった。

そうして、

ほんに大事に大事に、汚さんごと、

さあ、お腹(なか)もこわさんごと大事に育てんさっけん、

風邪いっちょも引かじね、五つも六つになんまでは、

ほんーに元気に育ちんしゃったて。

「太うなったあ。太うなったあ。この子が後継ぎやっけん」

て言うて、言いいよんしゃったぎぃ、

七つになった時、

友達のね、夏、

「ぎゃん暑(ぬっ)かけん、泳ぎに行こう」て誘いぎゃ。

「危なか所(とけ)ぇは、いっちょんやらどき、

友達ちと一緒に行くない良かろう。

深か所(とこ)さには行くごとなんばーい」て言うて、

「いろいろ浅か所(ところ)で泳げ」て教えて、

注意してやんしゃったて。

あったぎねぇ、

海に行ったことは、この子はなかったもんじゃい、

深か所(とこ)さん、深か所さん泳いで行たて。

アップウアップウて、しおっちゅうもん。

そいぎぃ、そいを見つけた、あの、友達は、

「あらー、ソロリソロリノチョウエモンさんちゅう、

ソノコハチョウメイノチョウエモンの溺れよっごたあ」

て、言うたぎぃ、

「あらー。そぎゃんやあ。

ソロリソロリノチョウエモン、ソノコハチョウメイノチョウエモン」

ち、皆、その長(なん)か名前ば

いっちょいっちょ言うもんじゃっけん、時間の。

「そいぎ早う、家(うち)の者(もん)に、あの、知らせじゃあ」

て言うて、走って行たて、

「あの、あんたん所(とこ)のソロリソロリノチョウエモンちの、

ソノコハチョウメイノチョウエモンさんの

アップアップして溺れよんさあっけん、

早(はよ)うチョッと見ぎゃ来てくんさい」

て言うて。家(うち)ん者(もん)が、

「そいじゃあ」て言うて、

おおあわてて家(うち)におん者(もん)全部(しっき)ゃどめ、

走ってその川に来たけど、

長か名前ばつくっぎんとにゃ、

長生きばすっじゃろうてつけたとが、あだになって、

余(あんま)い長か名前ば呼びよったばっかいで、

とうとう溺れて七歳の時に死んでしもうた。

そいばあっきゃ。

長か名前があだになった。

[六三八 長い名の子]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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