嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしですって。

田舎では蚕さんば沢山(たくさん)昔ゃ飼(き)ゃあよったて。

そうしてねぇ、

その沢山(よんにゅう)蚕さんば飼(か)うて、

蚕さんば繭(まゆ)ば張って、

繭ば売らんばならん段になったちゅう。

そいぎぃ、

ある家(うち)の若い人で、

もう小僧さんに、その繭ば売いぎゃ持って行かせる段になったて。

そうして、

ご主人が言うことにゃ、

「俺(おれ)はなあ、『四』の字は嫌いだから、

『四』の字のつくことは言ってくるんなよう」

て、何時(いつ)も使うとった人達にも、

内輪の者(もん)にも言いよんさったてよ。

そいぎねぇ、

繭ば売りに行くごと言いつけられた小僧さんも、

ほんに利口かったちゅうもん。

そいぎんとねぇ、

繭の目方は全部で四貫四百四十四文目も

ほんなことあったちゅうもんねぇ。

あの、測ってみたぎぃ。

そいどん、

ご主人に四貫四百四十四文目てどん言うないば、

こりゃもう、恐ろしか怒られるに違いなかあ、

と思うたもんじゃっけん、

その帰って来てから、

「幾らやったかあ」

て、ご主人が聞きんさいたぎぃ、

「一貫と三貫と、三百と百文。

そうして、三十と十文と三文と一文あったあ」

て、言ったて。

そいぎ主人が、

「そうかあ」て言うて、

その「四」の字を言わじ良かったない、と思うておられたそう。

そうして、

一時(いっとき)考えてみおっぎぃ、

「『一貫と三貫と三百と百文。三十と十文。三文と一文』、

ああ、ヒョッとすっぎぃ、あの小僧はほんに気の利いとったけん、

ごまかしたいろうわからん」

て、じき疑うて言んしゃったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

村祭いのきたて。

そいぎ

主人は、

「今日(きゅう)は祭いじゃっけん、

お前(まい)達も暇ばくるっけん

一日中遊びに行たて良かばい。

お祭り行たて来(き)ない」

て言うて、その繭ば売いぎゃ行た小僧さんに、

「皆でわけらい」と言うて、

「四百文小遣い銭ば全部(しっきゃ)あでわけろう」ち言(ゅ)うて、

やんさったて。

そいぎぃ、

その銭ば年の多か小僧さんが預かって、

「お店に寄って、何(なん)じゃい買おうかあ」

て言うて、

皆でわけじ年取った小僧さんが預かっていたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

「銭ば手に握っとったいどん、

店に寄ったぎぃ、預かっとった四百文の小遣い銭のなか」て。

「落としてしもうとった」ち言(ゅ)う。

そいぎぃ、

「困ったにゃあ。シッカイ握っとったいどん」

そうして、ほんに世話焼きんさったて。

そいぎぃ、

「困ったねぇ。そこん辺(たい)ば探してみゅうかあ」

ち言(ゅ)うて、

今のう来た道ばずうっと、

草の上も何処(どこ)ーも

あせくって見て(分ケナガラ見テ)見て歩(さる)きんさったぎぃ、

二百文の落ちとったて。

「良かったない。良(ゆ)う探そう。良う探そう」

て言うて、また探してズーッと行きおったぎぃ、

一時(いっとき)したぎぃ、道の真ん中(なき)ゃあ

誰(だーい)も拾(ひる)わじぃ、

また二百文落ちとったちゅうもん。

「良かったない。人に拾われじ良かったない」て言うて、

喜んで、また銭ばシッカイ握って、

「もう、ぎゃん失うぎ世話焼かんばらんけん、

何(なん)も買わじぃ、お宮さい参(みゃ)あだけして、

家(うち)さい帰ろう」て言うて、帰んさったて。

そいぎ主人が、

「何(なん)じゃい面白かったろうだあーい。

銭で何(なん)ば買(こ)うたない」

言うて、話しんさったぎぃ、

太か、年の多(うう)か丁稚さんが、

「銭(ぜん)ば失うてさ、私が二百拾うて。

そうして、この小さか小僧さんがまた道ん真ん中から、

二百文拾うて、四百文貰うたとのあったけん、

『もう何(なーん)も買わじ帰ろい』ち言(ゅ)うて、

帰って来たーあ」

て言うて、話しんしゃったぎぃ、主人は、

「そうか。折角銭ばやったとけない。

何(なーん)も使(つき)ゃあえんじゃったとかい。

あいどん、

銭しゃあぎゃあ持っとっぎぃ、何時(いつ)でん使わるっ、使わるっ」

て言うて、喜びんしゃったて。

「では、大事にしとかいよ」

て、言んしゃった。

そうして、

「ありゃあ、二百文、二百文」

ち言(ゅ)うて、四百文勘定ばして、

「ありゃあ、ほんに気の利いてもおいどん、正直かったあ。

繭売った時もいっちょん、そろばんに入れてみたぎぃ、

いっちょん間違(まちぎ)ゃあはなかったあ。

ほんにあの男は信用して良かにゃあ。

俺(おい)が疑うたとが悪かったばあーい」

て言うて、

一(ひと)人(い)で頷(うなず)いて

家(うち)ん者ば信用しとんさったて、いうことです。

そいばあっきゃ。

[四二六B 「四」の字の嫌い(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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