嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

何(なん)をすっにも、

もう億劫(おっくう)にしてたまらん男がおった。

何するのもふゆう坊(怠ケ者)で億劫でたまらん男がさ、

「初めて上方参(みゃ)あばしてくっ」

ち言(ゅ)うて、出かけたちゅうもんねぇ。

嫁さんが弁当ば首に掛けてやんさったあて。

そうして、

テクテク、テクテク、旅に出たて。

そいぎぃ、

お昼はもう早(はよ)う過ぎて、お腹(なか)ペコペコやったて。

あいどん、

首に掛けとっ弁当ば解(ほど)くとがまた億劫じゃったて。

ああ、こりゃあ、仕方がないにゃあ。

誰(だい)かに解いてもりゃあたかに、誰(だーい)も来んかにゃあ、

もう、笠ば被ったよか塩梅(んばい)に来おったあ。

口ばアーンと、開けた者(もん)の来おったて。

そいが、だーんだん近づいて来たもんじゃっけん、

その男に、

「俺(おれ)ぇの首に掛けとっ弁当ばほ解いてくれんやあ。

そうすっぎぃ、半分なあんたにも食わしてやるよう」

て言うて、側に寄って声をかけたぎぃ、

そん男が言うことにゃさ、

「とんでもなかあ。私(わし)ゃ、

この笠の紐(ひも)の解げて落ちっごたいどん、

ふゆうかもんでぎゃん首で押えて、

もう笠ん紐ば立派に結ぶことなかごと億劫かとけぇ、

お前(まい)さんの弁当ば解(ほて)ぇてくりゅうごとなかあ」

「ありゃあ、私(わし)よい億劫な男もあったあ」て。

その弁当ば首から解くとのふゆうしゃと、

面倒くささに困っとる者と、

笠の紐の解けて笠は落ちそうになっても

キチンと結びとうなかふゆう坊、億劫か者

と出会って解決策はなかったて。

億劫な者同士の出会いじゃったっで、

ふゆうか者にはかなわんて。

[四三〇 二人の無精者(AT一九五〇)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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