嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう、田舎も田舎。山ん奥の村じゃったてぇ。そいぎぃ、うどんの食べみちいっちょでん知らんやったあてぇ。そいぎねぇ、庄屋さんが、

「お正月はあの、全部(しっきゃ)あお招きすっ」ち、村いっぴゃあの者が行くことになったて。そいぎぃ、どがんしたこんな良かあ、と思うて、

「あいどん、こりゃ、和尚さんの何(なん)でん物知いじゃっけん、和尚さんのしんさっごとすっぎ良かばーい」て言うて、庄屋さんの所(とけ)ぇ皆招(よ)ばれて行ったて。

そうしたところが、案の定、その長(なん)ーかとの、うどん出たて。そいぎぃ、うどんの食べみちのいっちょんわからんけん、皆、和尚さんのしんさっごと、どぎゃんやって食べんさろうと思うて、見よったら、和尚さんがねぇ、耳にヒョッと、こう引っ掛けてね、食べんさったて。そいぎぃ、皆なの者が耳に引っ掛けてうどんば食べたあ。

そうしたうち、そこにはおかずに芋ころがしの出たて。芋煮しめの。ところが、和尚さんな目も悪かったもんだから、コロコロコロって、芋ば転ばしんさったあ。そいぎ皆、自分のお膳にのっとった芋ば、コロコロコロ転ばかして、皆転ばかすもんだから、

「こりゃ、不思議なもんだなあ、今日のお客は」ち言(ゅ)うて、庄屋さんはビックイして見とんさったて。

そいで、遅(おす)うにはお便所にしびれて這(ほ)うて、和尚さんは中休(なかよけ)ぇに這うて行かんばらんばい、と思うて、山の村ん者な和尚の後に続いて皆、這うて出たあ。

そいばあっきゃ。

〔三五一 首掛け素麺(cf.AT一二四六)、三一四 芋転がし(AT一八二五)、三一七 (類話)の複合〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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