嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ふうけ者(もん)さんがおったてぇ。

そいぎぃ、何時(いつ)まっでんお嫁さんば取らじおったいどん、

「もうにゃあ、嫁さんば取らじゃあ」て言うて、

その、お世話すっ者があって、

ふうけ者さんにもお嫁さんの来んしゃったてじゃんもんねぇ。

ところが、お正月たんには何時(いつ)でんお嫁さんの家、

御初いしおんしゃったて。そいぎぃ、ふうけ者さんな、

「御初いせんばらんよ」ちて、

きれいか紋付きの着(き)物(もん)で行きんさった。

そいぎぃ、お嫁さんの家(うち)では、

「こりゃあ、もう、お餅でん焼あてご馳走せじにゃあ。

お聟さんじゃんもん」ち言(ゅ)うて、

お餅ば金網に焼きんさったぎぃ、プーッて、

お餅の膨(ふく)れるってじゃんもんねぇ。そいぎぃ、

「焼けたけん、どうぞ食べてくんさい」て、言んしゃっ。

「いんにゃあ。餅のぎゃん膨れ面(つら)しとっとけぇ、

食べられーん」ちて、ふうけ者さんの食べんしゃらんやったて。

そいぎ今度(こんだ)あ、雑煮どんが、

そいぎ良かろうだーい、と思うて、

良か塩梅(んびゃあ)煮て、お嫁さんの家(うち)ん者の、

「雑煮ば、どうぞ」ちて、出しんしゃったち。

そいぎぃ、柔(やわ)ーらくなっ。

もう箸でつまむぎぃ、長(なが)ーく延びたて。

そいぎぃ、ふうけ者さんの言んさっことにゃ、

「この雑煮は、延びゆったい。

もう、こぎゃんあの、余(あんま)い延ゆうで、

ほんに人ばふうけ者にしたごとしとる餅は、食べられーん」て言うて、

とうとうお雑煮も食べえんしゃらんやった、ていうこと。

そいばあっきゃ。

〔三六一 餅は化物(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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