嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしねぇ。

山ん村ん者(もん)どんにさ、名主さんから、

「今年の正月は、私が振舞(ふんみゃ)あすっけん、

全部(しっきゃ)あどめ揃うて誰(だい)でん来てくいろう」ちて、案内がきたちゅう。

ところがもう、字も読みえん、料理も知らん、

礼儀も知らん百姓ばあっかいじゃったけん、

どがん、折角、名主さんから、

「お客に来い」て、使(つき)ゃあば受けたいどん、

どぎゃんあいして行たこんな良かいろ、

わからん者(もん)ばっかいじゃったて。知らん者ばっかいじゃったて。

そいぎ隣同士、心配の種のできたと話しよったぎぃ、

「年寄いに聞いてみゅう。ぎゃん、

わからじにゃ行かれん」ち言(ゅ)うて、

いちばん年取った人に聞いたぎぃ、そん人んの、

「礼儀どま、どぎゃんこってん良かさい。

お寺の和尚さんと一緒に行くとじゃんもん。

和尚さんのすっごーと真似てすっぎ良かたーい」て、

そぎゃん言んしゃったて。そいぎぃ、

「そうねぇ。そいぎぃ、そぎゃん怖(えす)かことなか。

心配せんで、お正月参りどんしゅう」ち言(ゅ)うて、

和尚さんと一緒に出かけたちゅうもんねぇ。

ガヤガヤガヤ、もう嬉しがって、

ソワソワして、そうして名主さんの所(とけ)ぇ、出向いたちゅう。

そいぎぃ、名主さんの所(とけ)ぇ、

うどんでん昔ゃご馳走じゃったて。そいぎぃ、

「今日(きゅう)は、うどんば皆にご馳走しゅう」ち言(ゅ)うて、

そのうどんが皆の前に運ばれてきたちゅう。

そいぎぃ、和尚さんばっかい誰(だい)でん、

キョロキョロ見おっちゅうもん。

和尚さんのすっごとしゅうだい。

そいで、和尚さんがねぇ、

うどんが余(あんま)い長(なん)かもんじゃいけん、

箸につっかけてから、

耳さい持っててヒョロッと(急ニ)引っかけてから、

スルスルスルって、すすんさったて。

「ありゃあ、

『うどん』ちゅうとは、ぎゃんして食ぶっとばい」ち言(ゅ)うて、

皆が和尚しゃんがしんしゃっごと、うどんば引っ掛けちゃ食べたて。

一時(いっとき)ばっかいして、

禿(はげ)た和尚の頭の掻(か)いしゃ、

和尚さんが、ガタガタガタて、頭ば掻きんしゃっぎぃ、

全部(しっきゃ)あどめ、誰(だい)でん掻くちゅう。

一時ばっかいしたぎ和尚さんが、足のしびれたとみえて、

這うて、厠(かわや)さい行きんさったちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、その呼ばれた百姓どま全部(ひっきゃ)お縁さい這うて行たちゅう。

そうぎねぇ、和尚さんは、

「こりゃあ、誰(だい)でんそがん小便したかかあ」て、言んしゃったて。

「いや、私(あたい)どまもう、何(なーん)も知らんけん、

和尚さんば信じて、和尚さんのしんさったごと真似おっと」て。

「こりゃあ、和尚さんのしんさったごとさえすりゃ、

間違(まちぎゃ)あないて、こう思うとっ」て、言ったそうです。

そいばあっきゃ。

〔三五一 首掛け素麺(cf.AT一二四六)(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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