嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

お城にきれーいな、ひとりのお姫様がおりました。

とても美しい姫様だということで、

もう国中の若者達は、そのお姫様を見たくて見たくて、

和歌者達がお城に出かけて行くんです。

そうすると、殿様から何時【いつ】も難題が出て、

その難題解決ができない者は、皆首切られて、

ひとりも若者達は、生きて帰ることができなかったて。

そういう噂が立っていたけれども、この村の若者は、

一遍生きているうちにきれいなお姫様だということだから、

ひと目見たい、是非見たいと、思っていたんですよ。

そういうことで、テクテク、テクテクと、

その、お城に出かけて行ったんです。

そうすると、お城に着いたら、

やっぱり殿様がいちばん口、会いに来られました。

そうして、この若者を見て、立派な若者だあ、

本当にこの男はいい若者だあ、

と殿様は気に入られて、

さて、私【わし】の問題が解決できるかなーあ。

どうかなーあ、と思われたんです。

そうして早速、殿様は問題に入【はい】りました。

「私【わし】の問題が、解けなくちゃあ、

姫には会うことができないよう」と、

言いましたら、若者は、

「承知しております」て言って、

殿様は早速家来に命じて、一斗ばかいの米櫃を持って来らせて、

庭にその米櫃をパーッと撒【ま】いてしまわれたんです。

そして殿様がおっしゃるには、

「この米を一粒残らず拾【ひろ】ってしまえ、なくなしてしまえ。

みんな拾【ひら】うんだ」て。

これが問題だったんで。若者は、

「はい」と言ったきり、熱心にしゃがんで、

米粒を一粒一粒拾っておりました。

けれども、半分ばっかい拾ったところで、

もう日は西に傾いて夕方近くになったんです。

もう薄暗くなりかかりました。

まあーだ沢山拾わんでいたんです。

すると、お庭ていうことも返りみずそこで正座して座って、若者は、

「神様。どうぞ、私をお助けくださいませ。

庭に撒かれた米粒は一粒も残らず、

拾わなくちゃいけません。

どうぞ、一粒残らないようにしてくださいませ。

私をお助けください」

もう両手を当てて、真剣に神様にお祈りしておりました。

そうすると、不思議に空から小鳥たちが、

大勢飛んできて、その庭に撒かれた米粒をもう、

サッサと見てる間【ま】に、

食べ尽くしてしまったんですよ。

殿様はそれを見て、

「ああ、よく片付けてしまったねぇ」て、感心されました。

「けれども、まあーだ問題があるよ」て言うて、

翌日なったら、また同【おんな】じ米櫃に中に、

お米がいっぱい入【はい】ったのを家来に持って来らせて、

今度お城の側を流れている、

水かさの底の見えないくらいの流れがある所に、

その一斗樽の米をパーッと川に、

今度は投げ込まれたんで。そうして、

「この米粒を一つも残らず拾わなくちゃ、

私【わし】の問題の合格とは言わせないよ。

一粒残らず拾い集めるんだ」て、こうおっしゃったんで、

「はい」て、言ったきり、

若者はジャブジャブと川に入って行って、

その撒かれた米粒、一粒一粒に熱心に拾いました。

半分も拾わないうちに、もう日は陰って、

西山に日は沈もうとしています。

もう、後は夜の闇が迫るばっかりで、するとまず、

若者は川につっ立って、また両手を合わせて、

「神様、本当に川に投げ込まれた、

この米粒を少しばかりは拾うことができたけど、

全部拾い集めることはできません。

どうか、私を助けてください。

神様、どうぞ、私の力がおよびません。

お助けください。お願いします」て、一生懸命に若者は祈りました。

そうしたら、たちどころに沢山の子鮒が寄ってきて、

もう、側にあった米櫃の中に、

もうポロポロ、ポロポロ口に咥えた米粒を拾って、

入【い】れたんですよ。

そうして、夜になる前に、もう全部拾って、

川ん中に一粒も残らないようになりました。

そいで、問題が済んだということで、

お城のお殿様に差し上げたら、

早速家来達を呼び集めて、九十の家来達に、

その米粒の一粒一粒勘定させられたんです。

そうすると、勘定の中にたった一粒、米粒が足りない。

「全部あがっていないよ。一粒足りない」て、

これを聞いた若者は、もう顔色をなくすようにビックリしたけれども、

「じゃあ、一粒あるかどうか、

川に行って私が確かめて来ます」て言って、

川に入【はい】って行きました。

そうすると、一匹の魚が側に寄ってきて、

口ん中をモグモグとさせて、

どうも米粒を口ん中に入【い】れているようでした。

そうすると、この米粒を若者が、

取り出そうてその魚を口から取り出そうとした途端に、

その魚の鼻が曲ってしまったて。

そいで、その魚を骨が曲った魚がいたけれども、

その鼻の曲った魚から米粒を取り出して、一粒持って、

「足りない一粒は、この米粒だ」って、

お殿様に差し上げたんですよ、若者が。

そいぎ見ごとに合格したけれども、

未だに川には骨の曲った魚が一匹おるということです。

そいばっきゃ。

〔一八二  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P459)

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