嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

あの、代官さんのさ、ある村にねぇ、

あの、お出でんさったてぇ。そいぎぃ、

「そのへんをきれいにお掃除をしてね、

めったなことお代官がお出でになるけん、

見苦しゅうなかごとしとけやあ」て言うて、

皆が、あの、良【ゆ】う名主さんからもお達しやったてぇ。

そいぎんと、

「へーい」て、言いよったぎねぇ、

あの、お代官さんが来て、そうして、お便所に行きんさったて。

ところが、田舎んことで手水でお手洗いもなかったて。そいぎぃ、

「これ、これ」て。

「手水を回しとけやあ」て、言んさったて。そいぎぃ、

「へーぇ」て、言うたけど、

何【なん】のことじゃいわからんやった。

そいぎぃ、随分いろいろ考えて、

「おい、お前【まい】。

『ちょうず回い』て、知っとるかあ」て言うて、

聞きよったぎぃ、ある者が、

「ああ、あの男がいちばん頭の長かけん、

あいば連れて来て、こうグルグル回させよっぎ良かろう」て言うて、

長頭ば連れて回して、

「お代官さん、長頭ば回しております」て、

言うたぎぃ、ビックイしんさったあ。

〔三〇三 手水回せ【AT一三三八】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P462)

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