嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーし。

貧しいお寺の和尚さんがねぇ、

夕方川に向こうて、

「おーい、河童どーん。

『明日【あした】の俺【おら】、お寺におっ』て、

聞いだぞうー。あさんも施餓鬼詣【みゃ】ばせろうー。

ご馳走どま食べ放題ぞうー」て言うて、

和尚さんのおかしかことば言いよんさんにゃあーて、

誰でん思うとったいどん、

あぎゃーん喚【おめ】きんさった。

あったぎねぇ、

川にフーウって、河童の顔出【じ】ゃあて、

「ご馳走どまいっぴゃあー食べて良かようー」て。

「本当【ほんと】かあ」て。

「そいない私【わし】も詣【みゃ】あ」て、

言うたちゅうもん。

そうして、あくる日になったぎぃ、

その河童もねぇ、お寺さんやって来て、

「こんにちはー。和尚さん、

じき来たばんたあ」ち言【ゆ】うて、

詣ゃあったて。

ニコニコしとったて。

和尚さんさんな、

「うん、ゆう来た。

さあ、いちばん上座がお前【まい】の分ぞうー」て言うて、

いちばん上座に河童ば座らせて、

「さあー、今日は良【ゆ】う詣ゃあってくいたけんがあ、

お酒どん飲みやい」て言うて、

お酒どん飲ませたて。

そして、河童の座っと膳ばこう、

河童から見っぎぃ、

そけぇはねぇ、お膳には、

美味【おい】しかろごたっ竹の子の味噌あえがあって、

竹の子の漬物【つけもん】もあって。

「ありゃあ」ち言【ゅ】うて、

お酒どま随分呼れよったちゅう、河童は。

あったぎぃ、

キョロウーキョロー見っぎぃ、

その沢山【よんにゅう】お膳ばしちゃあところで、

人間の子供や大人が、

ほんにー美味【うま】かろごと、

パリパリパリパリ、

シャリシャリシャリシャリいわせて、

その竹ん子の味噌あえも

美味しそうに食べようてじゃもんねぇ。

そいぎぃ、酒ん肴【さかな】に、

「さあ、美味しいぞう」ち言【ゆ】うて、

その味噌あえば、河童が食べようたぎぃ、

硬か硬か、もう歯のひっこぐ【引キ抜ク】ごと硬か。

目は白黒させて食べようけども、

食べられんて。

あいーどんも、

あいの人間どんさん達ゃあ、

その硬かとば、

美味ーかろうごとして食べおんさっ。

そいぎ人間な、

妙ーに歯の強かとば持っとっばいのうー。

怖【えす】かにゃあ、と思うて、

河童はキョロキョロ、

キョロキョロして見ながら、

俺【おれ】の頭の皿は軟か。

強か歯でやらるっぎぃ、

大事【ううごと】、と思【おめ】ぇよって、

ジーッとしとったぎぃ、和尚さんの、

「さあ、河童どん。

お酒もいいが食べろ食べろ、

たんと食べろ。お代わりもしていいぞ」

て、言うたちゅうですもんね。

あったいどん、

「もう、和尚さん。ご馳走さまー」て言うて、

河童はそれ以来、

もうコソコソやって川さん帰って行った。

そうから先ゃ、河童はねぇ、

人間ば取る時ゃ口からは絶対手は入れん。

手どんいち切らるっぎぃ、

と思うけんねぇ。

尻ばーかい、

人間の尻ばあっかい河童は狙【ねろ】うとったちゅう。

チャンチャン。

〔一七二  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P448)

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