嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 恐ーろしかむかし。

分限者じゃったいどんねぇ。

小【こま】んか、小んか、けちやったて。

下女ば、何時【いつ】ーでん

魚【さかな】ば買【き】ゃあぎゃやんしゃいどん、

銭も持たせんさったことなかったちゅうもんねぇ。

魚のそうして売りきれた時分に、

籾【もみ】ば袋に入れて、

銭の替わりに持たせてやって、おんしゃったて。

そうして、魚屋にねぇ、

その下女が行くぎぃ、

「もう、魚は売りきれた。売りきれた」て、

言われちゃ帰って来て、下女は、

「魚は一匹でん残っとらんじゃったあ」て、言うぎぃ、

「よし、よし」ち言【ゅ】うて、

もうほくそ笑【え】みよんしゃったちゅう。

そのけちな男はねぇ。

そうして、籾ば樽【たる】に入れて、

「ああ、籾が溜ったあ、溜ったあ」ち言【ゅ】うて、

ほくそ笑みおったてぇ。

そいぎぃ、友達ん家【うち】から祝いに招くちゅう。

「お祝いすっけん」ち言【ゅ】うて、

使いの来たちゅうもん。

そいぎぃ、ほんにけちか男じゃったもんじゃっけん、

この分限者さんなねぇ、下男の手にさ、

「祝いに行かれん」て言う理由ば、

手に書【き】ゃあて使【つき】ゃあにやんしゃったてぇ。

そいぎぃ、友達ゃ、

普通そういうふうな、

もうしまりやちゅうことは知っとったから、

あん男のこっじゃろう。

こぎゃんすんないば、驚きもせじぃ、

そんないば木の葉の三枚にどん、

「そんなわけなら仕方がないねぇ。

またの逢うとを楽しみにしょう」て、

返事ば書【き】ゃあて、

下男に持たせてやんしゃったちゅうもん。

あったいどん、そのしまりやはさ、

「良か物【もん】ば貰うて来たねぇ。

こりゃ、薪の焚きつけにちょうど良かばーい」て言うて、

薪の焚きつけにしたて。

恐ろしか金持ちさんじゃったいどん、

恐ろしかけちかったちゅう話よ。

そいばあっきゃ。

〔一七一  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P448)

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