嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村にとても正直な親子がおったてぇ。

お父さんと息子がねぇ、ほんに貧乏してその日暮らしの暮らしをしおったて。

そいぎある日、

村の寄り合いでお父さんがねぇ、

「山芋の値【ね】が恐ろしか高【たっ】かばーい」て言う、人の噂ば聞いて来て、

そいぎぃ、

「あの、山芋掘いに行こうかあ。何時【いつ】ーでん貧乏ばかいしとんもん。

良か値ないば山芋掘いに行こう」

て、言うことになったいどん、昼に食ぶっ弁当もなか。

そいぎぃ、

「お隣【とない】の家【うち】から一合ぐりゃあ、

米ば貸【き】ゃあてもろうて来いよう」

ち言【ゅ】うて、

息子ばお隣にやったぎぃ、

「山芋ば掘いぎゃ行くけん、

山芋ば明日【あした】町で売ってから、

その金で米は買【こ】うて来て返すけん、

一合ばかい貸【き】ゃあてくんさい」ち言【ゅ】うて、

息子が隣から米ば借りて来たて。

その弁当ば持って親父さんと二【ふた】人【い】、

山に行きかけたら、山のもう入口来やぎぃ、

大きな山芋の蔓【つる】の見つかったちゅう。

そいぎぃ、息子がこいばエッサラエッサラ掘りかけて、

「父【とう】ちゃん、あんたは他んとば見つけおんしゃい。

私が一【ひと】人【い】でこいば掘いよう」て言うて、

息子は一生懸命掘りおったぎぃ、

親父さんが山ん中に入って行ったて。

息子がその山芋、掘っても掘っても、太うかとみえて底なしてじゃんもんねぇ。

息子が一生懸命掘いよったて。

もう一時【いっとき】ばっかい掘いよったぎぃ、

大きな石にカチッて、当たったてじゃんもんねぇ。

そいで、

掘っても掘っても、もう石じゃっけんで、

諦【あきら】みゅうかにゃあ、と思いよったけど、

あの山芋の蔓の太かとで、確【たし】きゃ太かとの入っとっばい、

と思うて、諦めきらんで、

まあ一遍腰ば据【す】えてやろう、と思うて、

半日もかかってようようして、石をまず掘りおこしたちゅう。

ところが、石を取り除いてみたら、

石の下には山芋じゃなし、

太ーか瓶【かめ】の埋【う】まっとっちゅうもんねぇ。

そうして、

その瓶ん中ばこうして見てみたぎぃ、

小判のさ、沢山【よんにゅう】詰まっとったてぇ。

その太ーか石ゃねぇ、あの瓶の蓋【ふち】ゃばしちぇあったとじゃった。

そいぎぃ、

ビックイして息子は太ーか声で、

「父【とう】ちゃん、チョッと早【はよ】う来て、早う」て言うて、お父さんば呼んだぎぃ、

お父さんが来てそいば見て、

「こいはねぇ、『昔【むかーし】、ここん辺【たい】たい山伏の住んどった』て、

父ちゃんも聞きおった。

そん山伏どんが確きゃあ埋【う】めた小判じゃいろうわからん。

俺【おい】どんが見つけたちゅうだけで、

ぎゃんとば二人で持って帰っぎぃ、罰かぶっばい。

元んごと埋めとかんばあ」て言うて、元んごと埋めて。

そうして、

山芋一本も掘らじぃ、親子の者は帰ったて。

そうして、

息子は隣にゃあ、米を返さんわけを話さんぎ良【ゆ】うなかけん、

「そういうことで、何【なーん】も掘って来んじゃったあ。

そいけん、明日【あした】米ば返すけん堪忍してくんさい」

て、言いぎゃ行たて。

そいぎぃ、

隣の主人が、

「金の壷の、そいぎその山芋ん所【とけ】ぇあったてやあ。

そいぎぃ、

そのあった所【とこ】ば教えてくれんかい。

教えてくるっぎぃ、もう、米の一合ぐりゃあ返さじ良かあ」

と言うて、隣の親父さんが言うもんじゃい、

正直か者じゃい、その息子は、

「こぎゃん、こぎゃん。右行って、左さん曲がって、

そいからじき右さい曲がって、山の入口【いいぐち】さい行たぎぃ、

ほんな入口、私【あたい】どんが掘った跡のあっ。

そのまま埋めてきた」

て言うて、教えたて。

そいぎぃ、

隣の親父さんは息子に、

「正直息子の金の詰まった、『あの甕【かめ】の、小判の詰まった甕ば見つけた』

ち言【ゅ】うて、俺【おい】達教【おそ】えたけん、

そいば俺どんが夜の明くっ前、山さん行たて掘って来【く】い」

ち言【ゅ】うて、話【はに】ゃあたぎぃ、

「ほんなことゃろうかあ。話の余【あんま】い良すぎごたっ。

ほんなことにせじが良かばーい」息子が言うたけど、

「あぎゃん、馬鹿正直者【もん】が嘘どん言いゆんもんじゃあ」

て、言うたぎぃ、

「そうねぇ。そいもそぎゃんのごたっねぇ」

て言うて、夜の明けんうち二人【ふちゃい】は教えられたごと行たぎぃ、

「あった、あった。土を掘いくい返したじき跡が、チャーンとあった」て。

「こいだあ。ここに間違【まちぎ】ゃあなかあ」

て言うて、二【ふた】人【い】はそこを掘っていたて。

もう一遍掘ったあとやっけん、じき掘れたて。

そいぎぃ、

石ば蓋【ふた】してあったけん、

「こいばい。小判の甕は」て言うて、その石の蓋ば取ったぎ中からさ、

蜂の一時【いっとき】に飛び出【じ】ゃあてきて、

もう追っかけて来【く】ってっじゃんもんねぇ。

ほんにチョッと、怖【えす】かごとブンブンやって追いかけて来んもんじゃい、

隣【とない】の親子はもう、恐ろしか酷い目に合【お】うて逃げて帰ったて。

そうして、隣の者な、一時【いっとき】したぎぃ、

「正直息子ちゅうて、信用しとったぎぃ、

蜂のかごうどっとば黄色かけん、

『お金』て言うて、俺たちは酷か目合【お】うたもん。

ほんにあいどんもいっちょ困らせてみんば、

蓋したままあの甕ば抱えて来て、

そうして、あすこのあの貧乏正直息子の親子ん所に、家の前に置いとこう」

て言うて、

二【ふちゃ】人【い】連れ悪か心ば起【お】けぇてまた立ち戻って、

そうして今日の甕ば、

わざわざ重たかとこれぇ運うで来て、正直者の家の中【なき】ゃあ入れとってぇ。

そいぎぃ、朝起きてみっぎぃ、

「昨日【きのう】見よったごたっ甕のこけぇ運ばれとっ」

て、正直息子が言うもんじゃい、

「ありゃ、どがんしたとやろうかあ」

て言うて、親父さんも寄って来たて。

「隣の人にあの甕のあっ所ば教えたけん、

わざわざ家【うち】まで持って来てくんさったとばい。

そいぎぃ、

お礼言いぎゃ行こう」

て言うて、二人【ふちゃい】でお礼言いぎゃ行きおったぎぃ、

隣の者が甕から蜂の飛び出すばいと、ジーッと見よったいどん、

急いで自分の家【うち】帰ったて。

そして、知らん振いしとった所【とけ】ぇ、正直父子の者の、

「ほんに家【うち】、あの甕のあったあ」て、言うたぎぃ、

「そりゃあ、あんた達の正直に神さんのあんた達に授けんさったとよう。

あの甕は、あんた達んとくさい」

て、こう言うたて。

そいぎぃ、

「ありゃあ、小判の入【はい】っとろうかあ」て。

「そがんどんじゃろうだい。どぎゃんしたっちゃ、お前【まい】さん達んとう」

て、隣の者の言うたて。

そいぎぃ、

隣ん者な蜂のいっぱい入【い】って、また痛か目、隣の正直者どま刺さるっくさい、

こう思うとったけど、

親子が恐る恐るその石の蓋ば取り除いてみたぎぃ、

もうまばいかごと小判がザクザクしとったて。

そいぎほんに、

そいから先ゃ貧乏ばあっかいしとったいどん、

親子の者はそいから先ゃ、ほんに幸せに暮らしたていうことばい。

そいばあっきゃ。

幸せになったとも、正直のお礼に神さんから貰うたて。そういうことです。

[一五五  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P430)

標準語版 TOPへ