嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 「四つのお握り」という題で、お話をします。

あの、むかーしむかしねぇ。

もう、とっーても貧乏の家【うち】があったんだってぇ。

そいーでも、暮らされんごと貧乏だったから、

「ぎゃーん何【なん】もなかぎどぎゃんすんねぇ」て、言うようなことで。

そいぎぃ、

「お前【まい】は、ご飯を食べじにゃおらるんみゃあで、

お握りば四つ持たせてやっけん、家【うち】ば出て行かんね」

て、家【うち】の者【もん】から言われたて。

そいぎぃ、

家にも暮らされじぃ、悲しかねぇ、と思ったけど、

でもお母さんが、

「もう、家では暮らされんばい。誰【だい】でも家では野垂れ死にせんばらんけん、

出て行たてみゅうかあ。

そして生きとったら会おうで」

て、言うことで、お握りを四つ持って行きよった。

そいぎぃ、

テクテク、テクテク歩いとったら、

もう痩ーせこけた人は、「もう歩きえん」ち言【ゅ】うて、

【乞食さんでしょうね、】痩ーせた人が、道ん所【とけ】ぇ座っとっ。

そいぎぃ、

「あなた、なしそけぇ座っとっ」

「もう、歩けません。もう何日でもご飯いっちょもなか」て

【貧乏が多かったじゃろう。食べていないから】。

そいぎぃ、

「私が、ここにお握りを持ってるから、これを上げます。

食べてご覧なさい。元気を出しましょう」

て、一つやったて。そいぎぃ、

「有難う。こんなに恵って、恵みをふせられて、こんないいことはない。

もう、汚い手拭ばこれがお礼です。受け取ってください」

お握りのお礼に、その乞食から汚い手拭を貰いました。

そいからねぇ、また行きよったら、

またあの、乞食んごたっとの道で、もうその人も歩けんように、

もうヨボヨボの年取った乞食でした。

この人は、枝、木の枝ば折って、目の不自由らしくて、

この枝で、こう何【なん】か川じゃないか、こう道じゃろうかて、

こう探ったようにしているから、

可愛そうだなあ、こんな私にもっ困った人がいる、と思うて。

またその人にも、持っているお握りをやったんです。

「有難う」て言うて、

「この枝を私に持って、ここまで歩いて来たけど、

もうとても歩いて来【き】ゆっかどうかわからんから、

この枝をあなたに上げましょう」

と、やったて。

「いいかしら」と。

「いや、どうぞ貰ってください。他【ほか】に差し上げる物ありません」

と、言うたら、その枝をを貰って、また行きおったら、

また困った人が。

とうとう三つ目には、また自分は食べないで、お握りをやったら、袋を差し出した。

「この袋の中に、そのお水を入れてください」と。

ポトンと入【い】れたら、お握りをそこん中から出して、

「ああ、美味【おい】しい」ち言【ゅ】うて、見ている前に食べたけど、

見てみたらまだ、お握りはその袋の中【なき】ゃあにあっ。

「あら、まだお握りはあるよ。

この袋の中に入【い】った物は、なくならない。

生まれてくるんですよ」と、その人は。

「あんな、何時【いつ】でも食べられるような、お握りが出てきます、不思議な袋です。

これをあなたに上げます」

そいぎぃ、お握りをやったげれど、入【はい】っているわけねぇ。

そうして、

だんだん、だんだん、その小枝を貰ったのをドンドン、ドンドン回したりなんかして、

その人はまた、ズーッと行っていたら。

そうしたらまた、乞食に会った。

そいぎぃ、

もう何【なん】かやらんでおられんように、その人がヨボヨボしているから、

持ってるお握りを、袋ん中にお握りができるんだから、やったら。

そしたら、そのね、

こうこブンブン回しているのがねぇ、

犬や猫に触【さわ】っとっぎぃ、犬が猫まで寄って来た。

それを触ると、犬や猫が踊い出す。

「こりゃあ、不思議だなあ」て、言うてねぇ、

四人の乞食にお握りを一つずつやったために、かえってそのいろいろねぇ、

いちばん初め汚いタオルを貰ったけれども、それでやったぎね、

垢【あか】がとれてきれいになった。

そいけん、

二番目は枝を貰ったけんが、何【なん】でも悪いのを見て、

まだいろいろ効き目はないけど、回って来て。

三番目に会った乞食には、袋を貰った。

けれども、袋に貰いゆっと、またその中から物が生まれてくる。

お握りを幾ら食べても減らない。

お握りが出てくるのを貰った。

そうして、ズーッと来【き】よったら、また座ってる乞食に会って、お握りをやったら、

その二番目に貰った、あの木の枝で犬や猫を寄って来る。

「来ちゃいけない」と、言ったら、犬や猫がその場で踊る。

そいぎその、乞食と一緒に喜んでね、

「まあ、家【うち】は貧乏で、お握りを四個持って出て行たけど、

この四個のお握りは、お陰で一段と本当に楽しい、楽しく暮らされるなあ」

て、この人は思ったけど、優しい心を持っていたために恵まれたて。

【何かちぐはぐになりましたねぇ。こいをまとめてください。】

そういうことです。

そいばあっきゃ。

[一五六 本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P432)

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