嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある村に、とても怠け者【もん】がおって、ちっとも働かない。

この男は馬鹿じゃないけど、何時【いつ】ーでんブラブラ、ブラブラ

何【なん】も仕事もせんで、そのへんをウロウロ、ウロウロしおった。

そいぎぃ、

その男がある日、お墓の側を通って来【き】よって、大きな塚のあったそうです。

そうして、

その塚から煙りの出よったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

隣【とない】に行たて、

「あの、墓辺【にき】ば通いおったぎ塚から、煙りの出よったようー」て、言うたら、

隣【とない】の人はねぇ、

何時【いつ】ーもあの怠け者【もん】がなんとか仕事ば、あんなに若くてせじゃあ、

と思うとったもんだから、ほんに頓知をきかせて、

「そうかあ。あいこそ長者さんの墓たあーい。

余【あんま】い福の沢山【よんにゅう】あり過ぎて何【なん】で持ちすぎてさ、

一年に一遍なあぎゃんして、余い多【うう】かとば燃しおんさっ」

言うて、聞かせんさったて。

その怠け者【もん】な、

「そぎゃん福の多【うう】すぎん者【もん】のあろうかあ。

そいぎぃ、

俺【おり】ゃあ、その福を貰いたかあ」て、言うたて。

そいぎぃ、

隣【とない】の人は怠け者【もん】に、

「明日【あした】ーあ、あの塚の前に行たて、熱心に拝みおっぎぃ、

ヒョッとすっぎ福ばわけてくんさっかわからんばい。

そがん欲しかないば、福ばわけて貰うごと明日の朝、熱心に拝みおっぎ良かあ」

て言うて、隣【とない】の者【もん】の言わしたて。

そいぎぃ、怠け者【もん】はその話をほんなことと思うて、塚の前に行たて、

下駄どま投げ捨ててどき座って、

「どうぞ、私も福をわけてくんさい。

福なら何【なん】でも、いらんとは言いません。みんな貰いますけん、

どうぞ、福をわけてくんさい」て言うて、朝からどき座って拝みよったそう。

そいぎぃ、

その塚の中から声のしたて。

「お前【まい】が立派な体で、まあーだ若【わっ】かとこれぇ、働け。

死んでからは働かれん。

お前【まい】は働きしゃあがすっぎぃ、徳も福も集まってくるけん、幾らでんくる。

そいけん、

じき働け」て、何遍でんその塚の中から声のしたてぇ。

「まあーだ、まあーだ立派【じっぱ】な体じゃっけん働け。

まあーだ、お前【まい】も若いから働け。

死でしもうたら働けんぞ。徳も福もくるっけん、働きしゃあがすっぎぃ、福もくるっ」

て、声のしたちゅうもんだから、

その怠け男は、誰【だーい】でんビックイすっごと、福ば貰わんばと思うて、帰ったぎぃ、

「じき働くぞうー」ち言【ゅ】うて。

そうして、そいから先は、

もうビックイすっごと隣【とない】の者【もん】もビックイすっごと、

朝は早【はよ】うから晩まで一生懸命、汗だくになって働くごとなったち。

お隣の人は余【あん】まりそん男が怠け者だったから、

かねてその男に注意しとうしてたまらんじゃったことば、

塚の中に隠れて言んしゃったいどん、こりゃ神さんのお声てばっかい信じて怠け男は、

そいから一心に働くけん、大変徳のある金持ちさんになったそう。

そいばあっきゃ。

[一四九  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P423)

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