嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

恐ろしか大きな商売のお店があったてぇ。

そこには一【ひと】人【い】息子さんがおって、

嫁さんを貰うけども、

もう三日とそこに嫁さんが辛抱しとったことのなかったちゅうもんねぇ。

「こんな家【うち】にはおりとうなかあ」ち言【ゅ】うて、出て行くてぇ。

訳を尋ぬっぎぃ、

「食べるのを少ーし食べて、『仕事は沢山【よんにゅう】せろ』て。

『働きのぬるかあ』て、言わるっ。

ぎゃん毎日、小言ばっかい言わるっ所【とこ】にゃ辛抱でけーん」

て言うことが理由だった。

そうして、そのお店にはねぇ、まいっちょ理由があったて。おられん理由が。

桝【ます】の二つあったちゅうもんねぇ。

そうして、いっちょはねぇ、太ーか桝で、いっちょは小【こま】ーか桝で、

桝でごまかす店やったて。

そして、必ず嫁さんに、

「こぎゃん、いんちきしおっとば人にもらすことばなんぞう」

て、決めつけらるっとが、第一嫁さん達ゃ辛かったて。

そうして、皆が見張いしおっちゅうもんねぇ。

そぎゃんとば嫌で嫌でたまらんて。

そいで嫁さんは、三日と続かんじゃったて。

そうしたとこれぇ、ある時、お嫁さんがやって来たてぇ。

そいぎぃ、

あの嫁さんもじきしっと出【ず】っくさい、て思うとったぎぃ、

こがん太か店じゃったいどん、その嫁さんが来【く】んまでは、

お客さんが一【ひと】人【い】減り、二【ふちゃ】人【い】減り、卸屋さんでも、

「お宅の店には品物はやりとうなかあ」て、言うことじゃん。

卸屋に行く時には、どうして、桝の一斗二升【しゅう】入【はい】る桝ば持って行たて、

「こいで一斗分ください」ち言【ゅ】うて、銭【ぜん】ば払う。

そうして、売る時ゃ、八合ぐりゃあしかなかとけ、八合入りぐりゃあの桝で量って、

「はい、一升」ち言【ゅ】うて、売いおった。

そういう具合じゃったけん、

卸屋さんからも嫌われお客さんからも嫌われて、

何時【いつ】んはじじゃい、その店は落ちぶれかかっとったて。

そういう所にまいっちょ、

けなげなお嫁さんがやって来たちゅう。

そうして、

お嫁さんが言うことにゃ、

「私がこのお店に来てからは、私に仕切りば一切させてください。

まかせてください。

そん代わり今までお使いになっていた桝も計いも、私に戴かせてください」

て、気持ち良【ゆ】うして、言んしゃったちゅうもん。

そいぎぃ、姑はもう、

「うっ【接頭語的な用法】つぶれかかった店じゃっもん。仕方んなかない。

嫁に任しゅうだーい」て、言うてやったて。

そいぎぃ、その嫁さんなその場でねぇ、計いも桝も壊してしもうて、

新しく正しい計いや桝を注文したて。

そうしてねぇ、

「大安売り」ちゅう大きな張り紙ば出【じ】ゃあて。

そうして、

その日に買いに来【く】ん者【もん】にゃ、一升に山盛りして、

米じゃろうが、小豆じゃろうが売いよんしゃったて。

そいぎぃ、

一升買いの人には、

「おまけつき。おまけつき」ち言【ゅ】うて、山盛りしてやんもんじゃっけん、

もう人の余計集まって来【き】んしゃっちゅうもんねぇ。

そぎゃんしおんしゃったけん、

その家の評判な風のごとその良か評判じゃったあ。

そいぎぃ、

遠か所【とっ】からまでそこのお店に買【き】ゃあぎゃ来【き】んしゃっ。

そいで、

その家【うち】の品物なじき売り切れてしまうもんじゃい、

また卸屋さんに行くて。

そいぎぃ、

卸屋さんには当たい前の計いば持って行たて、じきお金ば払うもんじゃい

卸屋さんにも信用が良くなったて。

そいぎぃ、

家【うち】の姑じょうさん達ゃ、

「あぎゃん余計人の集まって、あぎゃん計いの良【ゆ】うしてやんない、

今に家【うち】ゃうっつぶるっ」

て言うて、その晩な夜逃げの準備までしおんさったちゅうもん。

そいどんねぇ、

明日【あした】になったぎ問屋から、

卸ば山んごと積んで品物【しなもん】が届けられよったもん。

そうして、

その家は新しか嫁さんになってからもう、恐ろしか商売繁盛して、

もうほんに、

「信用が第一」ちゅうことでねぇ、

そのしまいに来た嫁さんから、そのお店は恐ろしゅう繁盛していったて。

もう本当に商売をするには信用が第一て。

そういうことです。

[一四八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P422)

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