嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある所にねぇ、術を使【つこ】う人のおんしゃったてぇ。

そん人はねぇ、困った時ゃじき【タダチニ】術を使うて

いっちょん【チットモ】何【なん】でんしんさらんてよ。

この術使いさんがさ、旅に出んさいたちゅう。

そいが、冷【ひや】か冬の真っ最中じゃったて。

そうして、

雪のもう、こうチラチラ、チラチラ降る夕方、もう暗【くろ】うないかかったけん、

一軒の百姓家さんにね、

「私、向こん村まで行かんまらんどん、

とうとう日の早【はよ】うちぃ【接頭語的な用法】暮れたけん、

今晩一晩泊めておくんさい」

ち言【ゅ】うたて。

あったぎぃ、

その家【うち】ん者【もん】のねぇ、

恐ろしかうっ【接頭語的な用法】たまげた大きか声で、

「こぎゃな寒かとこれぇ、家【うち】ゃ、

あなたを泊めても囲炉裏に、くぶっ【燃やす】焚物【たきもん】でんなか」て。

「そいけん、隣【とない】どんちい行たてくんさい。

家【うち】ゃ、あなたさんば泊めえんばんたあ」

て、こがん言うたて。

そいぎぃ、その術使いさんなねぇ、

薪【たきぎ】んことない心配はいらんいらん。何【なーん】も心配せじ良か」

て言うて、ドンドンその家【うち】にもう、上がり込んでさ。

そうして、

囲炉裏の側【そび】ゃあ、ドカッと座って、

小刀ば我が出【じ】ゃあてばい、

自分の足ば、ドンドン、ドンドン削んさってじゃんもん。細【こも】うなっごと。

そうして、

削んさったぎ幾らでん木のかけらの落ちてきて、

そいこそボウボウで燃えて、良か焚物じゃったてぇ。

囲炉裏はドンドン、ドンドン燃えたちゅう。

そいぎねぇ、その宿ば貸した家の者【もん】はねぇ、

「こん人【ひた】そいぎぃ、ただん者じゃなかばーい」

て、ほんなことはねぇ、怖【えっ】しゃしょったて。

そうして、

術使いさんの帰んさった後はさい、もうその家【うち】ば見渡してみんしゃったぎぃ、

家【え】の柱の半分に削られとったちゅう、ねぇ。

半分になっとったてばい、帰んさった後には。

我が足じゃなし、柱ば削っとんさったと。

そいどんねぇ、

そん人【しっ】たんはねぇ、正月の来っぎ我が家【や】ではさい、

開【あ】かずの間ちゅうて、かねてはピシャーと閉めて、いっちょん開けじぃ、

そけぇ籠【こも】んさっちゅう。

そうしてねぇ、

そけぇ入【ひゃ】あって開かずの間で正月の年取いばしおんさいたちゅう。

「誰【だい】でん、ご馳走ば全部【ひっきゃ】あこけぇ持って来い」

ち言【ゅ】うて、

術使いさんなそこでご馳走やら、酒やら沢山【どっさい】運ばせてね、

そけぇお籠【こも】いしんさって。

ある年ねぇ、

その術使いさんに雇われとったお手伝いさんのさ、

「不思議かにゃあ。我が一【ひと】人【い】で年取って、こけぇ籠んさってやあ」

ち言【ゅ】うて、ジーッと、戸の透【す】き間から見てみんさったぎばい、

七匹のひき蛙のさ、一緒に術使いさんと座って、

そうして、そけぇ並べてあっご馳走ば、

「美味【うま】いか、美味か」ち言【ゅ】うて、我がどんも食べよったてぇ。

あったいどん、

お手伝いさんの見んしゃったとばじき知って、

かつがつ【メイメイ】何処【どこ】さいじゃい

ひん【接頭語的な用法】逃げてしもうたちゅう。

そいから先ゃ、術使いさんの術の利【き】かじねぇ、

何【なーん】もしわえんごとなんさいたちゅう。

チャンチャン。

[一三六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P409)

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