嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とても宝物【もん】ば沢山【よんにゅう】集めて

自慢しとんさった殿さんのおんさったてぇ。

そうして、ある日、

家老さんにさ、家老さんば呼うで言んさっには、

「あの、予はなあ、

宝物ばいっぱい持っとっ」て。

「そうして、一【ひと】人【い】で楽しみよいどん、

あんさんも宝物ば沢山【よんにゅう】持っとろ。

そいけん、いっちょお前【まい】さんも

良か宝物ば持って来て、

いちばん良か宝物ば持って来んしゃい。

較べてみゅうでぇ。

私【わし】にも見せてくれぇ」言んさったて。

そいぎぃ、家老さんなねぇ、

家【うち】ゃ家老てまでいうごとしといどん、

貧乏ばあーっかいして宝物は持たんとこれぇ、

困ったことば言んさったにゃあ、と思うて、

我が家さにゃ渋々、

ションボイして帰んさいたて。

そいぎ奥さんのねぇ、

そんことを聞いてねぇ、

「そうねぇ。困ったこっちゃったねぇ。

そいでも、何【なん】の宝物を

探【さぎ】ゃあてちゃ

私【あたい】どめはなかねぇ」て言うて、

奥さんも一緒になって困んさいたて。

そいぎぃ、一時【いっとき】ばかいしたぎねぇ、

奥さんが言んさっには、

「あんさん、家【うち】には

何【なーん】も宝物ちゅうてはなかいどん、

私【わたい】どめぇは

十二人の子宝ちゅうとのおろうがあ。

『子も宝』て、言わりゅうがあ。

殿さんな、まあーだ若【わこ】うして一【ひと】

人【い】も子供を持っておんさらん。

私どんが子供ば宝較べに連れて行ってくんさったら、

どうですかあ」て。

そいぎぃ、家老さんもねぇ、

「ほんなこてねぇ。

考えてみっぎぃ、そうもそうねぇ。

『子宝』ち言【ゅ】うもんねぇ」て言うてねぇ。

「そいぎぃ、

なか物は持って行かれんもんねぇ。

子ば連れて行たてみゅうかあ」て、言うてねぇ、

宝較べに十二人の子どんばさ、

お城さい連れて行くことにしんしゃったて。

そいぎ一方、殿さんなねぇ、

金の鶏【にわとい】てぇろの、

銀の猫てぇろの、珊瑚の宝舟てん、

宝物のそりゃあもう、

家にはもう二百個と沢山【ゆんにゅう】選べてさ、

家老さんなどぎゃん宝物ば持っとらそうかにゃあ、

と思うて、待っとらしたて。

そいぎぃ、ヨッチヨッチと、

家老さんがお見えんさいたちゅう。

そいぎぃ、

殿さんな良か宝物ば持っとんしゃっもんゃ、

ニコニコ顔で迎えんしゃったてぇ。

そうして、まず言んしゃっには、

「ここに沢山【ゆんにゅう】宝物ば並べとっけど、

そっちの宝物は何【なん】じゃあ。

早【はよ】う見せてくれ」て、言んさったて。

家老さんな、チョッと見せられんじゃったいどん、

次の部屋ばソロッと開けんさったぎぃ、

我がどんがいちばん良か着物【きもん】、

晴れ着を着せた男ん子ば六人、女の子も六人。

見てみっぎぃ,

その子供達が行儀良くチョコーンと、

座っとっ。そうして、

お殿さんに一【ひと】人【い】ひといがねぇ、

立派に挨拶【あいさつ】ばしたて。

ほんに、家来どんも沢山【よんにゅう】寄って、

二人の宝較べば見ゆうど思うて、

寄っとった家老達も、

その子供のいじらしか可愛らしか。

そうして、利口そうなしぐさ、

もう金の鶏てん銀の猫てん、

見といよいかもう、

そのお子さん達の利発かとの、

チョッと見飽かんごとあったちゅう。

そいぎねぇ、ほんにねぇ、

皆家来達は目ば細めて、

そのお子さん達ば見おったちゅう。

あったぎぃ、

殿さんも目ば細めて見おんしゃったてぇ。

そうして、一時【いっとき】ばっかいしたぎねぇ、

殿さんの言んしゃっには、

「金の鶏は時ば告ぐっこともなか」て。

「銀の猫も鳴きいっちょもせん」て。

「あんさんの十二人のお子さん達の、

まあ立派、美しく見事で賢かごとしとっ」て。

「こりゃ、ご家老。お前が手柄じゃ。

お前【まい】の宝は、

こぎゃん立派か物【もん】ななかあ」て。

「この日の宝較べは、もう殿の負けじゃあ」て言うて、

殿さんはねぇ、そいから先ゃもう、

宝物な目ない高【たっ】か物ば

買【き】ゃあよっさったいどん、

プッツリ宝物集めはせんごとなんしゃった。そうして、

「我が家老の利発か子供達ゃ、

私【わし】のきっと良い

家来になってくるっばい」て言うて、

満足じゃったて。

そうして、

自分もにわかに子供が欲しくなってねぇ、

観音様に、

「どうぞ、子供を授けてください」ち言【ゅ】うて、

そいから先ゃ、お詣りすっごとなんさったて。

そいばあっきゃ。

〔一三三  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P404)

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