嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

良しゃんちゅうて、樵【きこり】さんの村におらしたちゅう。

その良しゃんが山でばい、何時ーでんも木を倒【たわ】しおんしゃったて。

もうすぐ働き者【もん】じゃったてやんもんねぇ。

そいぎ

日の暮れかかったけん、

「もう帰ろうかにゃあ」ち言【ゅ】うて、帰り支度をしおったぎぃ、

ほんな近くでばい、

「わああー、あはあー、楽しい。そりゃ愉快」ち言【ゅ】うて、

賑【にぎ】やかか笑いのすっちゅうもん。

ありゃあー、何【なん】やろうかあー、と思うて、

ほんなそこじゃいけん、ホーち、覗いたぎね、

じき近くに太か洞穴【ほらあな】のあってばい、

天狗さん達のさ、そけぇ輪になって、酒盛りしおんさったてぇ。

そうして

金の盃ば持ち上げてばい、こうこう振って、

『酒出ろーう。酒出ろーう』て、言んしゃった。

酒のジョロジョロジョロて出【ず】ってじゃんもん。

『今度、鯛出ろーう。鯛出ろーう』て言うて、

鯛の煮付けの美味【おい】しかごたっとの、もうわんさと出てくっち。

ありゃあー珍しかと思うて、見おったぎぃ、

『今度、ご馳走出ろーう。ご馳走出ろーう』て、言んさったぎぃ、

もうご馳走の沢山【よんにゅう】出て、

「さあ、そぎゃん歌出さんで、さあ、飲みんさい。

たんと飲みんさい」

ち言【ゅ】うて、

ワッハッハアワッハッハア愉快そうに笑【わろ】うて、酒盛りばしおんしゃいたて。

「愉快だ。愉快だ」ち。

あったぎねぇ、

その中の一【ひと】人【い】が

良しゃんがこう、目ん玉ば皿んごとして舞【み】ゃおったぎ気づいてばい、

「あら、お前【まい】もふけぇ【ココニ】来て、酒ば飲めぇ。

お前も酒ば好きじゃろう」

ち言【ゅ】うて、呼びんしゃった。

そいぎぃ、

「うん」て、しんしゃったぎねぇ、

「お出で、お出で」

て言うて、行たぎぃ、

「さあ、飲め。さあ、飲め。この酒美味かぞ」

ち言【ゅ】うて、

ついで飲ませんさったとの、美味さ美味さ、飲んでも飲んでも美味かて。

今まで飲んだごともなかごと美味か酒やったあ。

そいぎねぇ、

一時【いっとき】したぎぃ、

天狗さんの、

「人間な酒飲むぎ愉快になっぎぃ、踊いば踊ってじゃろう。

お前【まい】も踊い知っとろう。踊れやあ」

あったぎぃ、

この良しゃんな踊いが上手じゃったちゅうもん。

そいぎ

ほんな踊いじゃなかとば手振り足振りい、

もう良かかげんに恐【おっそ】ろしか踊ったぎね、ヒョットコ踊いまでしたあて。

あったぎねぇ、

もう天狗さん達の喜んでねぇ、

そいぎぃ、

「お前【まい】に褒美ばやろう。

そいぎぃ、何が良かかあ」

て、聞きんしゃったぎねぇ、良しゃんがね、

「何【なん】でん良かいどん、その盃の欲しかあ」

て、言んしゃったてぇ。

「あいの欲しかあ」

て、言んしゃったぎぃ、

「よし、よし。こいもか。そいないくるっ、くるっ。

この盃ほんに宝てじゃあ持って行け。大事にせろようー」

て言うて、天狗さんから貰うて懐しっかいなやーあてね、

「そいじゃ、お世話になりましたあ」

ち言【ゅ】うて、行こうでしたぎぃ、

別の天狗さんの、良しゃん鼻ばうんと掴んで、

「また、来【こ】いようー」ち言【ゅ】うて、

鼻ばつまみんしゃったぎねぇ、

天狗さんのつまみんしゃった所【とこ】の鼻の赤うなったて。

赤鼻にいちなった。

そいぎわが家【え】さい帰ったぎぃ、

家【いち】ん者【もん】の、

「どうし、そがん赤ば、なし赤【あっ】鼻になってきたかあ」

て、全部【しっきゃ】あ言わん者【もん】はなかったて。

鏡ば見たぎぃ、ほんなこて天狗さんのごと、鼻の真っ赤【きゃ】じゃったて。

そいぎぃ、

「今日【きゅう】も、ぎゃんじゃったあ」ち言【ゅ】うて、

「何【なん】でん、金の盃も貰【もろ】うて来たばーい」

ち言【ゅ】うて、こう懐見よって出しんしゃったぎぃ、

あつこで見た時ゃピンピカの盃じゃったいどん、

ぼろ盃じゃった。

そうして幾ら振っても、

「酒出ろ、魚出ろ」ち言【ゅ】うても、

何【なん】も出んじゃいどん。

そいから先も、ごーおとい良しゃんな

「赤鼻さん、赤鼻さん」て、ち言われとった。

そいばっかい。

[一三七  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P410)

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