嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある村にねぇ、あのお梅さんていう子供がおったてぇ。

そいからねぇ、同じー時分【じぶん】にねぇ、

まちかーっと【モウ少シ】二つ、三つ多かとの息子のそん村におったちゅうもんねぇ。

そいで小さい時から、よう仲良く遊びよったて。

ところが、

そのお梅さんのほんにきれいかったちゅうもんねぇ。

そいぎもう、その辺【へん】でじきもう、

「きれーかあ。美人ばーい」ち言【ゅ】うて、じき評判になったちゅうもん。

そいぎねぇ、都のお殿さん駕籠の迎えに来て。

そして、

「うちのお城に来てくれんかあ」

て言うて、連れてはって行かれんさったて。

そいぎねぇ、

その男の人は、幼馴染で大抵仲良く

小さい時からもう、二人の思い出はいっぱいあるごと遊んで来たのに、

何【なん】かガッカリして、もうショボッとなってしもうとたて。

そいぎぃ、

その男はもう、ほんにもう、火の消えたごとして暮らしよったけど、

「あの、お梅さんに会【や】あぎゃあ行たてみゅう」て言うて、

その青年もねぇ、遅【おす】うには笛ばほんに吹くごとなったてやもん。

そいぎぃ、

横笛を吹きよっぎぃ、だんだんおかしか音【ね】じゃったどん、

だんだん上手になったちゅう。

都の殿さんの家に連れて行かれたお梅さんも病気になったちゅう。

そんな噂が村に流れたと。

そいぎ男は、笛ばいっちょ持って、

そして、もう、はるばる京都さい、お梅さんのおっ所に目差して上らしたちゅう。

そして、ここがお梅さんのお屋敷ばーい、と思う所で、

笛ば吹【ひ】いてみゅうかにゃあ。

こけぇ、確かにここの屋敷じゃろうごたっ、

と思うて笛ば、ピィーピィーちゅうて、吹きんしゃったぎぃ、

どうか中庭ん辺【にき】で、琴の音のすってんやんもんねぇ。

あらー、琴の音のすってやんもんねぇ。あらー、琴の鳴りよっ、

と思うたぎぃ、

ほんにちょうどその笛に心の合うたごとその、

良か塩梅【んびゃあ】に、節【ふし】の何【なん】ちゅうとじゃい

歌も申し合わせもせんとこれぇ、良【ゆ】う合体するごと弾きんしゃっちゅう。

そいぎぃ、

確かにこけぇおって、元気におんしゃっばいねぇと思うて、

毎晩毎晩、その塀【へい】の外さい来て男は笛を吹きよらしたちゅう。

そうしたところが、

もう随分長い間、夜【よ】な夜な通うて来て笛ば吹きよらしたいどん、

ある時、その笛ば吹きよんしゃったぎぃ、

ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャーンて、荒か音のしたて。

あら、今んた何じゃったろうかあ。

恐ろしかごとやったあ、

て思うて、その男はビックイして、

その晩なとうとう琴の音を聞くことなしに帰ったて。

そいぎぃ、

今夜はじゃろうと思うて、翌晩また行たてみたぎんと、もう何も琴の音がせん。

また次の晩も行たけど、何の音もせん。

あいたあ【シマッタア】、

あん時の音は確【たし】きゃお梅さんが、誰かに悟られて

殺されたとじゃなかろうかあ、

と思うて、とにかく田舎さい帰ってみゅう、

と思うて、男は大急ぎでもう、我がふるさとさい帰んしゃったて。

そいぎぃ、

予想どおりそのお梅さん方ん者【もん】の墓詣【み】ゃあしよんしゃったとに

出っかしたて。

そうして聞いたぎぃ、

やっぱいちょうど指折り数ゆっぎぃ、あの晩のこと、

お梅はとうとう死んで帰って来たあ。

そしてあの、

「あそこの丘ん方に埋めたばーい」て、言んしゃったちゅう。

そいぎねぇ、その男もガッカイして。

そうしてもう、自分の家【うち】にも帰らんで、

まっすぐそのお梅さんのねぇ、もう埋められた所に座って。

そしてその、今まで吹きよった笛ばもう、

一生懸命にその晩な吹きんしゃって。

そうしてとうとうその晩そこで、ちぃ死にんしゃったちゅう。

そいぎねぇ、ああ、後から皆、

「あの二人は好き合うとったとばい。ほんに可愛そうにねぇ」

て、言う話が、その辺【へん】に広がったて。

そうして、お梅さんば埋めたお墓に梅の生えて、

梅の花の咲【し】ゃあたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

向こうん方から、鶯が来ては麗【うるわ】しか声で鳴くちゅうもん。

「あらー、あの男とお梅さんの心は、あの世で一緒になんしゃったもんたあ」

て言うて、

「お梅さんにまた鶯がまた、あの、春を知らせて鳴きよっちゅう」

て言うて、田舎で噂にそいからなったちゅうよ。

チャンチャン。

[一三五  本格昔話その他〕

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P408)

標準語版 TOPへ