嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

何【なん】か、本当の宝物、本当の宝物。

こい大事かですよ。

あの、子宝ていうけど、親が宝ていうと。

「本当の宝物」というとを語ります。

むかーしむかしねぇ。

もう、お坊さんが村々をズーッと回って歩【さる】ききよんさったて。

「災難どんがなかごと、流【は】行【や】い病気を出さんごと」

ち言【ゅ】うて、お坊さんなズーッと回って歩【さる】ききよんさったて。

そいぎぃ、

昔、ある所に、もう長者さんがおらしたちゅう。

恐ーろしか金持ちやったて。

そいでん、

長者さんの道楽者ちゅうぎぃ、

宝物【たからもん】ば集むっとが、もう長者さんには、

「こけぇ宝物のあっぱあい、珍しかとのあっぱい」

ち言【ゅ】うて、じきー買いぎゃ行きんさっ。

もう長者さんの、もう気違いと同【おな】しこと、宝物ば集めよんさっ。

ほんなこて、その長者さん方は座敷の床の間いっぴゃあ宝物のあったちゅう。

ある日のこと、

お坊さんのこの里の長者さん所【とこ】の角に、

ニョウニョウ、ニョウニョウ、ニョウニョウち言【ゅ】うて、

お経さんば上げよんさったぎぃ、

家族の者【もん】なおらじぃ、長者さんの良【ゆ】うその玄関口に来とんさったて。

そうして、

そのお経さんば上げんさっとば待って、

「お坊さん、あんた今夜は何処【どけ】ぇ泊まっかんたあ」

て、聞きんさったぎぃ、

「いやーあ。今夜は泊まっ所【とこ】、まあーだ決めとらん。

こいから探さんばらーん」

て言うて。

「そうねぇ。私【わし】ん所広かけんばい。

何処【どこ】でん泊まる所あっけん、

今日、私【わし】ん所【とけ】ぇ泊まんさい」

て、長者サッサと勧めんさったて。

そいも、長者さんはねぇ、

我ーが宝物を、この坊さんは方々、

日本いっぴゃあ巡り来って歩【さる】きんさっけん、自慢しゅうだい

と思うて、その下心があったもんじゃい、喜んで、

「泊まんしゃい。泊まんしゃ」ち言【ゅ】うて、呼び込みんしゃったぎぃ、

「泊めてくんさっお言葉に甘えて、

そいぎぃ、お宿をお借りします」

ち言【ゅ】うて、泊まんしゃったて。

そいぎねぇ、お風呂どん上がんさって夕食どますんだぎぃ、

その道楽の長者さんの宝物自慢が始まったて。

「お坊さん、座敷に来てんさい」

ち言【ゅ】うて、誘いんさった。

言わるんまま、長者さんの後ろさいついて座敷行きんさったぎぃ、

もうーそりゃあ、床の間いっぱい宝物ば飾ってあったて。

「そいぎほら、こりゃあ太かいどん、

毎日、朝昼晩、お世話ならんばらん杓文字て。ご飯つぐと。

こいがなからんば、どがんこってん、人間はくれんじゃろうがあ」

て。【飯杓子よ。杓文字よ。】

「立派ですねぇ」ち言【ゅ】うて、大きな杓文字やったて。

「そいからほら、見てみんさい。

こりゃあねぇ、きれーいか大きな鉢ば抱えて来て、

もう雨の降ってもさい、

もう何時【いつ】まってん、一年中、これは鉢の中で牡丹の咲【し】ゃあとって。

きれいかろーう」て。

「ほんに咲きほころびとっ」て。

「いっちょん散らん」て。

【そい散らんですよ。そい描【き】ゃあたとじゃっけん。】

「もう、ぎゃんほら、こい宝物を出【じ】ゃあて、

おおかとけぇ行たて買【こ】うて来た。

もうーほんにお皿ば見おっぎ心の和【なご】むねぇ。きれいかもんねぇ」

ち言【ゅ】うて、自慢タラタラじゃったて。

「そいから、こいば見てんさい。打ち出の小槌」て。

「こいば大黒さんどま握んさっぎぃ、小判でんジャラン。

まいっちょトーンていくぎぃ、ジャラン。

お米出ろ、デンジャランて。

お米のジャラジャラやって出てくっ。

そいどん、

こりゃ作い物【もん】じゃっけん、お金てん米てん出んばってん、

良【ゆ】うできとんなたあ。立派か小槌やろう。

ほーんにこいば宝物。

ほんーに誰【だい】じゃい売ってくいたけん、良かったあ」

ち言【ゅ】うて、

「誰【だーい】でん、こいば見すっぎぃ、骨までわかっ。

そいからほら、こけぇあっとば見てんさい。

こや、鯉のごとしとろう。

ところが、ほら、

あっちん方ば見っぎぃ、泉水に行くよう、

あの、座敷の向こうに、泉水の池には

緋【ひ】鯉【ごい】てん真鯉【あまごい】てん泳ぎよっばい。

そいぎ

どぎゃんこってん鯉が、仲間にないたしゃ縁側まで来とっ」

て、言うてねぇ、もう自慢しんしゃってじゃんもん、ねぇ。

もう、ほーんに自慢しんしゃって。

「そうねぇ、まあーだあっけど、大概で終わっとき。

沢山【よんにゅう】持って、沢山お金ば出しんさったら」

「なーい。もう私はお金ば持っとんもんじゃい、

ぎゃん物【もの】でんがとっとこうで思う」

て、もう恵比須顔じゃったて。

そいぎ一時【いっとき】したぎね、お坊さんの浮かぬ顔しといなっ。

「お坊さん、あんた何【なん】じゃい言いたかろうごとしとろう。

何じゃい言いたかっぎぃ、言んさい。何でも聞くばい」て。

「言うて良かろうかあ」て。

「言うて良か」て。

「私ゃ、話は聞く」て。

「あんたの、坊さんやっけん言んしゃっことない、何【なん】でん良【ゆ】う聞く」

て。

「何て言いたかとう」

「長者さん、がんた【コンナ物ハ】何処【どこ】でんあっ」て。

「ぎゃん、何処【どこ】でんあっとは宝物じゃなかー」て。

そいぎブーッて腹かきんしゃった。

「『飯杓子』て言うて、あなた、日に必ず三度お世話にはないどん、

こりゃみやげ物に行たてんさい。沢山【よんにゅう】売っちぇあっ。

ぎゃんと何処でんあっ」て。

「打ち出の小槌は、あなた自慢タラタラじゃったじゃろうがあ。

こいも四国に行たてんさい、何【なん】てじゃい言う

石鎚山【いしづちやま】てじゃいいう山の入り口ん所、門前町に売っちゃばい、

高【たっ】かばかい。

ぎゃんーとはね、『宝』て、言われん。

誰【だい】でん持たん世の中【なき】ゃなかとが『宝』て。

ぎゃん沢山【よんにゅう】集めたっちゃ、宝どんじゃなか」

て。

そーいぎぃ、

「こん畜生【つくしょう】、坊主のくせに我が何【なーん】も宝物持たん、

と思うて、京の遠か所まで行たて骨折って買【こ】うて来たとは、難癖つけて」

ち言【ゅ】うて、恐ーろしゅう腹かいた。

顔真っ赤にして、腹かきんさった。

「坊主は何【なん】も宝物持たんもんじゃい、

何【なん】て言うても良かもんのう」

て。

そいぎ坊さんなね、

「私も、宝物は持っといます」

「そぎゃんやあ。宝物ば持っとんないば、こけぇ、その宝物ば見せてんのう。

ほんな宝物じゃい、何処【どこ】ん辺【たい】から拾うて来たこっちゃい、

見てむっけん」て。

そいぎ黙ーって坊さんは、衣の中の小【こま】ーかとばヒョッと出しんさった。

味噌の染み込んだ汚れたガーゼに包まれた物、

幾重にでも包んじゃった物を丁寧にコウコウほときんさったぎぃ、出てきた、

あんた、小ーか、そいもおろいか盃じゃった。

「おりょう。そいが宝物てやあ。

ぎゃんと、う捨てて良かごと家【うち】にあっ」て言うて、言んしゃったて。

あったぎねぇ、

「長者さん、お酒ならあっですかあ」

「酒は、あいよう」

「そいぎぃ、少しください」

そいぎぃ、

タッタタッタて行たて、

「お酒ばこれについでください」

ち言【ゅ】うて、小ーか盃になみなみとついだて。

そいぎぃ、

そのへんにしばらく置いてから、グルグルって回【みゃ】あて、

また目の前置いて。あったぎね、

何処【どっ】からじゃいろうね、小さなみそぎの鳥がさらーっ飛んできて、

その盃の渕に止まってね、ホーホケキョ、ホーホケキョて、二声鳴いて。

そいから、

その周りをグルーッと回って、また何処【どこ】ともなく飛んでいってしもうた。

こいを見た長者はねぇ、

目を丸うしてビックイした。

「ワアー、こやんとのあっとやあ」

「はい。こいが私のお寺に伝わる宝物です。

私は十八代目、私がやっとお寺を継いだけん、

この春にこれが私に受け渡されました。私の寺の宝物ですよ」

「おー、こぎゃんと何処【どこ】でんなかろう」て。

「とても、世界を探してもありません」て、お坊さんの言んしゃった。

そいぎーその、長者はそいが欲しゅうしてたまらん。

「坊さんやあ。【今度は坊主と言いよったとの、坊さんになった。】

私の宝物のうち、何【なん】でんあんたの好【し】いたとをやる」て。

「いっちょで足らんぎ二つでんやっけん、換ゆう」て。

「そいと換えてくいろ」て。

そいぎ坊さんの言んしぎぃ、

「こいばっかいは、換えられません。重宝です。お寺の宝で、

やっぱい後継ぎの者に譲られた物【もん】ば、何【なん】て換えられましょう」

「いんにゃあ、換えてくいろう。ぜひ換えてくいろう。それが欲しい。

こいば私に宝物にしたか」て、もう並べたててもう、

耳に蛸のできるごと言うばってん、そのお坊さんは頑として換えんじゃった。

「もう夜も十二時過ぎたのに、寝【に】ゅうかあ」

ち言【ゅ】うて、寝【ぬ】っごとなった。

そいぎぃ、

お坊さんはねぇ、床に就いてからしみじみ考えて、

こりゃあ明日【あした】まで泊まっておっぎぃ、

あの長者から、あいばもう欲しゅうしてたまらん、てわかとっ。

そいでん、

こいばっかいが譲られんて。また責められて責められて、困っばい。

もう今夜のうちにもう、ここを逃げ出【じ】ゃあたがましやろう、

と思うて、もう布団も早うたたんで、部屋の隅に置いて、

裏口からジーッと表の大通りに出て、もうエッサエッサと、

ああ、早くここから遠ざかろう、早う逃げよう、と思うて、

お坊さんは急いだて。

一方、

この長者はねぇ、

我が寝床に入【はい】ったけど、目はキョロキョロと眠【ねぶ】ろうと思うても、

眠【ねえ】られんて。

あの坊主、明日【あした】、換えてくいろう、換えてくいろうち言うて、

あの様子、換えるもようじゃなかて。

今夜【こんに】ゃジーッとおっ盗いよい他【ほか】に、盗む他に、

とても換えてくれんばい、

と思うたもんじゃいけんねぇ。

もうー寝【ね】っとろうだい、十二時過ぎたもん、

と思うて。コソコソ足音忍ばせて、

座敷の隣【とない】の部屋まで誰にも言わんで、

コッソリと長者は、様子ば見に行き、

何【なん】の音はせんけん、こりゃあ今のうは、ぎゃんして潮時ばい。

今おっ盗らんぎぃ、とてもあいば手に入れることはできん、

と思うて、ジーッと、ソロッと襖【ふすま】ば開けてところが、

間抜けのからで立派に片付いとった。

あいた、先ば越された、

と思うてねぇ、もう押っ取り刀で、刀を早うはらって、そいを握って、

「もうさあ、行たてんば」ち言【ゅ】うて、

「何処さい行たろうかにゃあ。早か坊主だ」

と言うて、追い駆けて追い駆けて、

もう本当に追い駆け追い駆け、後【あと】追って。

あの小【こま】んか盃ばいっちょ手に入るっためには、どぎゃなこってんすっ。

あいばいち殺さんば、渡さんやろう。

一生懸命なって行たら、もう大きな山の入り口まで、

「早かねぇ」て、

「こん畜生、坊主。ここまで逃げとったか」

て言うて、一目散に刀で斬りつけてね、そのお坊さんをいち殺【これ】ぇたあて。

そうして、その、あれがあんもんだから、盃を手に入れて、

「ああ、これこれ。これが欲しかった。命がけで来た甲斐があった。

こいが手に入るっぎ私【わし】の物」

て言うて、もうそいから先は、足の軽いこと軽いこと、

一目散に自分の家【うち】を目指して帰って行ったて、長者が。

そうしてもう、手荒ろう裏の戸口を開けて、お縁に上がって。

そうして、

「これ、これ」ち言【ゅ】うて、台所からお酒ば持って来て、なみなみとついでね、

飲み干して、

そして

目の前に、そこに置いておるけど、その上に、盃置いて、

いっちょんその、小鳥の青かとの来んて。

何時【いつ】まで待っても来んて。

もう宵の明けかかって、そいでも鶯を待っとっけど、鶯の姿を見せんて。

そいぎねぇ、長者はその盃を手に、もう高々と上げて、

「ぎゃん役立たんとはいらん」ち言【ゅ】うて、庭に投げつけたぎぃ、

庭に石のあったとにぶっかって、木っ端微塵にねぇ、

俺【おり】ゃあ、ぎゃん宝物ち言【ゅ】うて、ぎゃん役せんとはいらん」

て、パーッて捨てた。

そいぎねぇ、

何処【どっ】からじゃい小鳥のズーッと飛んできて、

木っ端微塵の盃ばいっちょいっちょ尋ねたようにして回って、

そうしてまた何処ともなく飛んでいった。

そいはねぇ、

あのお坊さんはねぇ、床から盃を出して、お酒ばついでもらいんしゃった。

そいぎしばらく置いてね、

「その宝物、お宝様、お宝様、お宝様、お宝様、お宝様。お宝様、お宝様」

そいぎ宝というとですって、鳥が。

そいで最後に、

長者が「『宝物』ち言うて、『宝』」て、そいば聞きそびれとった、

ブツブツブツて言うもんだから、

「高【たこ】う言え」て、お坊さんは言わじぃ、

「お宝様、お宝様、お宝様」て、聞きそびれて、

「これが宝物」て言うて、「役せんとは宝物じゃなか」て、ぱーんーと捨っ。

それでねぇ、人間もねぇ、親はたったひとり、

お父さんはひとり、お母さんもひとりて、

二人ておんさらん。

まあ、産みのお父さんはひとりて。

ところが、

だんだん、だんだん年取って弱くなって、役さんごとなって。

必ず老人になったら役しない。

そいで人間は大事な宝物を忘れて、いらん者にしちゃいかんよ、ていうお話。

こいばあっきゃ。

[一三四  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P405)

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