嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

氏神さんのお祭いにはさ、

何時【いつ】ーでん奉納相撲のあいよったもんねぇ。

そん時、上【かみ】の者【もん】と下【しも】の者とわかれて、

「上の者対下の者」て言うて、そりゃあもう盛んなこてやった。

「今度【こんだ】あ、うちから強かとば出す。

今度あ、上から強かとば出す」ち言【ゅ】うて、

恐ろしかはいこみ【張リキリ】よったてぇ。

そいどんさ、

何時【いつ】ん頃じゃいろう、

上に恐ろしか相撲の強かとのおってねぇ。

そうして、

あの男と相撲ば取っぎメチャクチャ投げられた上、

そうして、

あの男の相手【やあて】になったと

全部【しっきゃ】あ骨の、腰の骨おし折ったい、

そいから腕のひん【接頭語的な用法】にじれたいして、

片輪になっ者ばっかいやったけん、

あいが出てくっぎぃ、出【ず】ん者のなかったちゅう。

そいぎぃ、

恐ろしか天狗になってさ、上の方のその強か相撲取いは、

「誰【だい】でん良か、出て来い。

相手はおらんとかあ」て言うて、

驕【おご】っちゅうもんねぇ。

「誰もおらんとやあ」て、言うた時さ、

土俵で見物しよった爺さんがねぇ、

そうねぇ、大変年取っとんさった人がさ、

「俺【おい】がまちぃっと若【わっ】かぎぃ、

お前【まい】と私【わい】は手合わせをしたかもんないどん、

ぎゃーんあん年取っちゃなあ」て言うて、

きゃあなぶったように【見下ゲタヨウニ】言う者がおったて。

そう言うて、隣の者と話しおった。

そいぎぃ、この力持ちの上の相撲取りは、

その話が聞こえたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

ドシッ、ドシッて、爺さんの所さい来て、

「爺さん、お前【まり】ゃあそいぎぃ、

今、若【わっ】か時ゃあ、大抵相撲取いよった話やったろうがあ。

そいぎぃ、

若【わっ】か時ゃ大抵強かったとばいのう。

そいぎぃ、

そん時の手並みの今も残っとっくさい。

いっちょ取ってみゅう」て、言いかけたて。

爺さんな困ったにゃあ、と思うて、

もう周りの者達も、

「こん爺さんなばい、もうこぎゃん、ヨボウヨボウしとんさっ。

ぎゃん爺さんに言いかけばつけんてちゃもう、

やめんさい、やめんさい。お前がいちばん強かあ」て言うた。

あいどん、

こい、いっちょん聞かんてじゃんもんねぇ。

そうして、爺さんが言うことにゃ、そん男に悟すごとさ、

「そりゃあなあ、若【わっ】か時んことば

言うたこっちゃったばい。

今に、お前【まい】の知っとっごと、腰ゃひん曲がっとるし、

ヨボヨボいちなって、

お前【まい】さんにゃとても適【かな】わん、適わん。

今言うたこと聞こえたない勘弁してくいろう」て、

その爺さんは言いおったて。

そいでも、

その男はどうでも爺さんと相撲を取いたしゃすっちゅうもんねぇ。

そうして、

手を引っ張って。

その、人間の良か爺さんば、引っ張って行たぎぃ、

そいぎ爺さんも、腹立てた様相で、

「そんない仕方のなかたい。

お前のすむごと、投げるないとん、押し出しないとん、

どぎゃんないとん、良かごとしてみろ」て言うて、

着とった着物【きもん】ばフイッて、投げて

両方の隅にしてあった青竹ばひん抜いで、

そいば手で握り潰【つび】いてさ、

青竹をそいからねじり鉢巻きにして、構えて、

「さあ、来い」ち言【ゅ】うたて。

もう見物人は、どぎゃんなるかと、ビックイもしたいどん、

皆、爺さんひいきさねぇ。

「爺さん、酷う投げろう。そん男ば投げろう」て、

もう手に拳【こぶし】握って爺さんば、応援しおった。

そいぎぃ、

行司が構えて、睨【にら】み合いました。

そいぎねぇ、爺さんが、ドーッと、

もの太か男の体に頭からつっかかって【元気ヨク言イカカッテ】行たて、

我が頭ん上に、ダーッとさし上げたかと思うぎぃ、

土俵ばグルグルグルって回って、

見物に、

「さあ、お前さん達。こいばどぎゃんすっぎぃ、

いちばん気のすむかあ。投ぐっとかあ、下すとかあ」

て、言んしゃった。

「そぎゃん威張っとは、酷う投げろい、投げろい、

酷う投げろい」て、言う者ばかいやった。

あったぎ

爺さんが、

「えーい」ち言【ゅ】うて、投げてみたぎさ、

土俵の真ん中に投げたぎね、

その男は土俵の中に埋まっとったてよ。

埋まっごと酷う投げんしゃったて。恐ろしゅう

そいぎもう、

周いの、土俵見物人の、

「ワァワァ」言うて、沸き立ったてぇ。

「爺さんなあ」ち言【ゅ】うて、おさまっとき行たら、

爺さんな何処【どこ】もおってじゃなかったて。

そいぎぃ、見物人な、

「あん男の余【あんま】い威張い方の酷かったけん、

あの爺さんな、あん人【した】、神さんじゃったばい。

あがんヨボヨボして勝ちんさっわけじゃなかもんねぇ。

きっと神さんじゃったばい」て、言うことじゃっちゅう。

そいでおしまいです。

[一〇八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P381)

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