嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 あのねぇ、お釈迦さんがねぇ、

あの、春の日のほんにポカポカすんもんだから、

あの、ズーッと弟子さんも連れて一人、春の日を欲びながら、

野原ば行きおんさったて。

そいぎねぇ、

まあーだ草の青々しとらじぃ、枯れ草ばっかい残っとんもんじゃっけん、

向こうの方から、火のボウボウ音立てて、

燃えよってじゃっもんねぇ。

そいが瞬【またた】く間【ま】に野原が焼野になりよる。

燃えてきたところに、もう一羽雉のジーッと見よんさったぎぃ、

水に潜って来【き】ちゃあ、パタパタパタて、

水ばかけよったて。

またーぎゃんして来て、その水の滴【しずく】をかけかけしおったちゅう。

そいぎぃ、お釈迦さんは、

「これ、これ、雉よ。

お前【まい】の小さい体でこの野火を消【き】やすこと、とてもでき兼ねるよ」

と、言われたら、雉は、

「いいえ。私はこの野で、あの、生まれて、

野で、これからも暮らしていかなくちゃいけませんから、

せめて我が今夜寝泊まりするだけでも、火を消したいです」

ち言【ゅ】うて、もう一心にこんなに返事をする間も、

水の中に入っては、それを繰り返す。

水をかけしおった。

それを目の当たりにお釈迦様はご覧になって、

あの雉鳥の、あの小さな一心な心に感心せられて、

こりゃあ、あの、何とか助けてやらなくちゃあ、と思われて、

チョッと念じられたら、空が一変に曇って稲光りがして、

ザーッて、大粒の雨が落ちてきて、

焼野の半分ぐらいは、その火を消すことができた。

こういうことで、

ほんに雉の一心の心ばえにお釈迦様はであろう方でも心をお打たれなさったて、

いうことです。

それで終わりですよ。

皆、一心に何事もするとねぇ、

心が天に通じて天の助けの賜物に合うことができる。

怠けとってはいけないと。

そういうことです。

そいばあっきゃ。

[一〇九  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P382)

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