嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にねぇ、兄弟とも猟師をして暮らすとの

おったて。猟人じゃったて。

そうして、ある日、二人が山に行ったぎねぇ、

山ん中(なき)ゃあ一軒家があったてぇ。そうして、

年(とし)寄(お)いのお爺さんさんが

一(ひと)人(い)住もうとったてじゃんもん。

そうして、

そのお爺さんが二人ば見て、

「お前(まい)達ゃ、何(なん)の商売しおっかあ」て、

聞いたぎぃ、兄弟も、

「商売人じゃなか。私達ゃ、猟人ですよう」て、

言うたぎぃ、

「私(わし)はなあ、叫(さけ)ぶ商売じゃあ。

叫(おら)ぶ商売じゃあ」て、言うたて。そいぎぃ、

兄弟は面白かもんじゃ、

「そいぎぃ、叫びごろしてみゅうかあ。

叫びごろしてみゅうかあ」て、言うたぎぃ、

「そいも良かろう」ち言(ゅ)うて、

お爺さんが出て来てねぇ、

向こうの山まで聞こゆっごと、

崖の崩るっごと声は出(じ)ゃあて、

「オーイ」て、呻(うめ)きんしゃったぎぃ、

弟の耳の皮がちぃ(接頭語的な用法)破れたて。

そうして、今度は兄さんに、

「叫べぇ」て、お爺さんが言うたてもんじゃっけん、

兄さんは猟に鉄砲持って来たけん、

鉄砲の玉ばつめて、そうして打ち込んで、

「ポトーッ」と、撃ったぎぃ、その音が効いて、

爺さんなビックイして、逃げたあ。そいぎぃ、

あの爺さんな化け物(もん)じゃったいろうわからん、

と思うて、兄弟が若(わっ)か勢いで

爺さんの後ば追っ駆けて行たちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、恐ろしか深か谷間の中の

沼の渕ん中に無(の)うなったてぇ。そうして、

その沼のん中から女の声が聞こえてさ、

「捕りこぼした。あの者(もん)どんば

とり殺さんじゃったあ」て、言うとの聞こゆって。

お爺さんがそがん言いおったて。そいぎ女がさ、

「私(あたい)が今晩、

蜘蛛に化けて行たてとい殺すー」て、

言いよったとの聞こえてきたてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、兄弟の者が山ば降りて行って、

家(うち)に帰って夜になってさ、

囲炉裏に当たりおったら囲炉裏の自在

鍵ん所(とっ)から、蜘蛛がスルスルスルって、

降りて来たてじゃんもん。そいぎぃ、二人の者どま、

昼間のあの化け物きっとあの蜘蛛に違いなか、

と思うて、箒(ほうき)を持って、

「早(はよ)う殺せ。早う、さあ、殺せ」て、

二人がかりで叩き殺してしもうたて。

夜の蜘蛛は、ぎゃんして鬼の化けて来たことの

あっけんねぇ、殺したが良かちゅうよ。

そいばあっきゃ。

[八一  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P357)

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